東大ら,電子の路線切替え光スイッチを1分子で開発

東京大学らの研究グループは,大きさが1nm程度のサッカーボール状の炭素から成る分子(フラーレン)を固体の上に配置し,そこに電子を通過させる際に光を照射することで,フラーレンから放出される電子の位置を1nm以下のスケールで制御することに成功した(ニュースリリース)。

光を固体に照射すると,固体から電子が飛び出す。光による固体からの電子の取り出しは,現在のコンピュータの速さを1000倍から100万倍にするスイッチとして期待を集めている。

電子が飛び出す位置は,古典電磁気学的な効果を用いると10nm程度の精度で制御することが可能で,このような電子放出位置を制御する技術により超高速スイッチを固体内に集積することができる。さらなる集積化のためにはより小さな領域で電子の放出位置を制御する必要があるが,10nmをきる小さい領域での操作は技術的に困難だった。

研究グループは,さらに小さな領域で電子の放出位置を制御するために,フラーレンを1つ固体の上に配置し,その分子に電子を通過させることで量子的な効果が働き,1nm以下のスケールで電子の飛び出す位置を変化させられるのではないかと考えた。

そこでこの実験を実現するために,固体上に配置したフラーレン1分子から電子が放出される構造(以下1分子電子源)を用いた。一方で,この1分子電子源からどのようなメカニズムで電子が放出されるのかは未解明だった。そのため,この実験と併行して電子が1分子電子源を通過するメカニズムを解明する必要があった。

フラーレン1分子を固定した電子源に光を照射し,その際にどのように電子の放出パターンが変化するかを観測した。電子の放出位置を観測するために電界電子放出顕微鏡(FE顕微鏡)を用いた。その結果,電子の放出位置が光を照射した場合と,光を照射しない場合で大きく変化することを観測することに成功した。

この変化は,電子の分岐器を1分子で作製したことを示している。さらに量子的な計算モデルを構築して,実験と比較することで,このような大きな変化はフラーレン1分子に広がる電子の特異な広がり方に起因していることを示す。これにより約70年未解明だった,1分子を電子が通過する現象のメカニズムを説明することに成功した。

研究グループはこの成果について,超高速スイッチのサイズを1分子にしただけでなく,今後,分岐機能により1分子に複数スイッチを集積できる画期的な技術となることが期待されるとしている。

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