豊田工業大学,広島大学,九州シンクロトロン光研究センター,名古屋大学,富山大学は,分子科学研究所の極端紫外光研究施設の放射光源UVSOR-IIIにおいて,シンクロトロン光源から出射される光電場がフェムト秒からアト秒の周期で振動する様子を観測する新しい手法の開発に成功した(ニュースリリース)。
シンクロトロン放射光は広帯域で,かつ高い輝度を持った光であり,紫外光やX線などのレーザー発振が困難な波長で高い品質の光を発生できる。世界各地に様々なシンクロトロン放射光施設が建設されており,幅広い分野で利用されている。
最近のシンクロトロン放射光施設では,アンジュレータと呼ばれる永久磁石を交互に並べた装置によって電子を蛇行させ,光を発生させていることが多い。交互に並べた永久磁石の数だけ電子が蛇行するため,その数だけ振動する矩形の包絡線をもった光電場波束が発生すると考えられている。しかし,フェムト秒からアト秒で振動する光電場を計測する手法がなかったため,実際にシンクロトロン放射光の光電場が測定されたことはなかった。
研究グループは,2つのアンジュレータが直列に並べてあれば,フェムト秒レーザーパルスを測定するためによく使われるスペクトル位相干渉法(SPIDER法)を適用して,シンクロトロン放射光の光電場を測定できることを見出した。
それぞれ10ペアの永久磁石で構成された直列アンジュレータから発生する光に対し,その技術を適用させた。紫外光の350nmおよび極端紫外光の35nmの2つの波長で実験を行ない,両方とも光波が0.1フェムト秒の周期で10回光電場が振動する,矩形の包絡線をもった波束が測定された。
波長が短い極端紫外光やX線の光電場波形は,位相の揃ったレーザー光でも計測が難しい。放射光は多数の電子の塊から放射されるので,レーザー光のように位相が揃った光ではないが,1つ1つの電子から放射する光波が同じであることを利用して,測定することができた。
極端紫外光という波長の短い光での光電場波形ができたことから,研究グループは,より波長の短いX線の波形計測に利用できる可能性があるとする。将来的にはX線の放射光や自由電子レーザーパルスに適用させ,これまでできなかった短波長の光電場波形計測を実現化するなど,放射光施設の可能性を広げ,各分野のさらなる発展に貢献したいとしている。