筑波大学は,Eu:LiCaIシンチレータを⽤いて,波⻑情報による粒⼦識別技術の実証に成功した(ニュースリリース)。
これまで中性⼦検出には,3Heガスを⽤いた⽐例計数管が広く⽤いられてきたが,価格⾼騰から代替材料が望まれている。最近では,6Liを含むシンチレータ(Eu:LiCAF等)が中性⼦検出器として注⽬を集めている。
6Liの熱中性⼦捕獲断⾯積は⽔素の約50倍と⾮常に⼤きく,6Li+n→α+3Hの反応を起こす。放出されたアルファ線(α)やトリチウム(3H)を検出し,ノイズとなる環境ガンマ線から識別できれば,波形情報を⽤いる従来の識別⽅法よりも⾼精度な,次世代の中性⼦検出器として応⽤が期待できる。
これまで,ナトリウムでドープしたヨウ化セシウムのシンチレータ結晶を⽤いた研究において,その発光⽐率が放射線の種類によって異なる可能性が⽰唆されていた。研究グループは,6Liを含む無機シンチレータとして,Eu(ユウロピウム)を添加した LiI(ヨウ化リチウム)-CaI2(ヨウ化カルシウム)ベースの無機シンチレータ(Eu:LiCaI)の開発を進めてきた。今回はそれを⽤いて,違いの少ない波形ではなく,発光波⻑の情報を利⽤して中性⼦事象とガンマ線事象を区別する研究を⾏なった。
Eu:LiCaIを1mmの厚みに切り出して,MPPC(SiPM)でサンドイッチし,⽚⽅に⻑い光をカットするフィルタを挿⼊した実験装置を組んだ。そして,中性⼦線源(252Cf)とガンマ線源(60Co)を照射し,その信号を計測した。
無機シンチレータの発光機構は⼤きく分けて2種類存在する。発光中⼼と呼ばれる少量の不純物を介して発光する場合と,発光中⼼を介さずホストの結晶で発光する場合があり,それぞれ異なる波⻑のシンチレーション光を放出する。
シンチレータ内で中性⼦が反応した場合は⾶跡が短いアルファ線が,ガンマ線が反応した場合は⾶跡が⻑い電⼦が,それぞれ放出される。電⼦に⽐べて⾶跡の短いアルファ線の場合,狭い範囲にエネルギーが放出され発光中⼼の原⼦が飽和することで,ホスト結晶による発光が多くなることが予想された。
従って,放射線の種類によって発光波⻑が異なれば,フィルタ有り無しの2つのMPPCでの検出光量⽐(ADC Ratio)に違いが⽣じると予想された。測定の結果,中性⼦線とガンマ線を照射したときとで,検出光量⽐およびその分布に違いが⾒られ,放射線の種類によって無機シンチレータの発光波⻑が異なることが実証された。
研究グループは今後,波⻑に違いが⽣じる理由について仮説の検証や,放射線検出器の実⽤化をを⽬指しており,これを応⽤した放射線の撮像技術を確⽴すれば,イノベーション創出の基盤となるとしている。