東京⼯業⼤学の研究グループは,DNA⼆重鎖の中間部に光増感剤を組み込み,核酸塩基に対して酸化⼒を持つ活性酸素の発⽣源たる光増感剤と光酸化されるグアニン塩基との間の距離をさまざまに変えながら酸化効率を測定し,両者の距離と光酸化効率の相関を解明した(ニュースリリース)。
CRISPR/Cas9 などの核酸分解酵素を⽤い,遺伝⼦を破壊して特定タンパク質の機能を喪失させるノックアウトの技術は,特定タンパク質の過剰発現によって発症するがんなどの疾病治療への応⽤が期待されている。
しかし,標的外の健康な細胞への攻撃や,DNAの断⽚を導⼊する際にDNAの運び⼿として⽤いるウィルスなどが抗原として抗原抗体反応を引き起こすなどの課題が残されていた。
そこで研究グループは,抗原性の低いオリゴ核酸を⾻格として⽤い,光照射で標的細胞中の標的核酸を改変できる⼈⼯酵素を構築することを最終⽬標とした。オリゴ核酸鎖の中間部に増感剤を導⼊し,狙った塩基部位を光酸化することで,遺伝⼦の転写・翻訳を抑制することによって標的配列の発現を阻害するノックダウンの⼿法を検討している。
その基礎検討として,光増感剤と光酸化を受けるグアニン塩基との間の距離を変えた22種類のDNA-光増感剤複合体を合成し,グアニン塩基の選択的な光酸化が可能か調査を⾏なった。その結果,光酸化における光増感剤とグアニン塩基間の適正距離を解明し,光増感剤から発⽣する活性酸素のDNA表⾯上での拡散を追跡することに成功した。
この成果は,研究グループの最終⽬標である⼈⼯核酸改変酵素の実現に向けた第⼀歩となるとともに,筒状分⼦であるDNA周囲の粒⼦拡散を追跡する初の事例だという。
この成果により,任意の配列に対して選択的に,核酸塩基部の光酸化を⾏なえることが明らかになった。この研究はDNAを標的にしているが,RNAを標的にすれば,新たな光ノックダウン法の開発が可能だとする。
光ノックダウン法を⽤いれば,時間と部位を限定しながら疾病関連タンパク質などの発現を抑制できるため,副作⽤の少ない疾病治療に応⽤することが可能になる。
研究グループは現在,RNAの光ノックダウン法としての医学応⽤を⽬指し,東邦⼤学と共同研究を始めているという。また,DNAの光ノックダウン法として,この研究の基礎を⼟台に,標的DNA⼆重鎖にビフェニル増感剤を挿⼊できる技術の構築を⽬指して検討を⾏なっているとしている。