近畿大学の研究グループは,安価で環境負荷が小さい化合物を用いて,3次元構造のナノ材料を簡単に合成することに成功し,このナノ材料が3次元構造を取ることによって,光を熱に効率的に変換し,その熱を用いて触媒として高活性に機能することを明らかにした(ニュースリリース)。
ナノ材料の応用例の一つに,照射される光を熱に変換して触媒表面を局所的に加熱することで,触媒反応を促進させるものがある。これは,「フォトサーマル触媒」と呼ばれ,例えば,水から水素を取り出す反応を促進させ,燃料電池のエネルギーとして利用する,といった活用法がある。
これまでは,フォトサーマル触媒として,一般的にナノ粒子の溶液が用いられてきた。一方,近年,ナノ材料のひとつとして,ナノワイヤーアレイと呼ばれるナノサイズの剣山のような構造のものが研究されている。
これは,3次元構造内で光が効果的に吸収され,熱を閉じ込めることによって,効率的な光熱変換特性を示すことが期待されているが,ナノワイヤーアレイ自体の合成に高価な機器が必要で,手順も複雑であるなどの理由から,特に触媒反応の分野において実現には至っていない。
また,現状,フォトサーマル触媒で利用できる光は可視光に限られており,太陽エネルギーの半分を占める近赤外光は利用できない。フォトサーマル触媒でより高効率に光を熱へ変換するためには,近赤外光の利用が求められている。
研究グループは,安価で入手しやすく,環境負荷が小さいマンガン酸化物を原料として選択し,100℃以下の低温で簡単にナノワイヤーアレイを高密度に合成する方法を開発した。また,合成した材料を400℃程度で加熱処理することによって,可視光のみならず近赤外光も吸収することを明らかにした。
さらに,加熱処理したナノワイヤーアレイについて,フォトサーマル触媒活性を評価した。その結果,ナノワイヤーアレイは,従来の溶液状態の触媒と比較して,活性が著しく向上することが明らかになった。
この研究は,環境負荷が小さい原料を用いた触媒を,3次元構造にして高活性化するという,触媒の新しい設計指針を示すものであり,今後,環境負荷を抑えて高効率に水素エネルギーを取り出すといった,さらなる触媒の開発への応用が期待できるとしている。