浜松ホトニクスは,インジウム(In),ヒ素(As),アンチモン(Sb)を使用した中赤外光検出素子と独自の回路設計技術を応用し,波長11μmまでの中赤外光に高い感度を持つプリアンプ内蔵型の受光素子である「プリアンプ付InAsSb光起電力素子 P16702-011MN」を開発した(ニュースリリース)。
分子には固有の振動があり,そのエネルギーに起因する特定の波長の赤外光を吸収する。この性質を利用して試料に含まれる成分の種類や量を分析することができるため,工場からの排ガスに含まれる窒素酸化物や硫黄酸化物などの分析では中赤外光が広く利用されている。
同社は,ガス分析や加工用レーザー装置のモニタリング用途などに向け,InAsSbを使用した中赤外光検出素子や,プリアンプをはじめとする電子回路や電子部品と素子を一体化し,感度を高めたモジュール製品を開発,製造,販売しているが,市場からの小型化の要求に対応するため,超小型で低コスト,高速応答の受光素子の開発を進めてきた。
今回,InAsSbを使用し感度を約1.5倍まで高めた裏面入射型の最新の中赤外光検出素子を採用するとともに,独自の回路設計技術により素子とプリアンプを直径が約9mmと小型の円筒形のパッケージに内蔵した。
この結果,モジュール製品と比べ体積を約200分の1と大幅に小型化しながらも,波長11μmまでの中赤外光を同等の感度で検出できるプリアンプ内蔵型の受光素子の開発に成功した。また,パッケージ内の配線を最適化することで,応答速度をモジュール製品の2倍となる100MHzまで高め測定精度を向上させるとともに,部品点数を削減することでコストを低減した。
この製品により,工場周辺などの測定現場で排ガスの成分を即時に分析することができる可搬型のガス分析機器への応用が期待される。また,中赤外光を利用する高精度の分析用途では主流となっている一方でRoHS指令の制限物質を含む,テルル化カドミウム水銀(MCT)検出素子からの置き換えが加速すると見込む。
この製品と同社の量子カスケードレーザーを光源として組み合わせることで,より高速で高分解能,高感度の測定を実現することができる。同社では今後,周囲の温度変化に影響を受けず,測定結果の信頼性を高めることができる冷却タイプの開発を進めていくとしている。