東北大学の研究グループは,数学分野のトポロジーの概念を基にして物質の表面に特殊な音波の導波路を実現した(ニュースリリース)。
物質の表面を伝わっていく音波は「表面弾性波」と呼ばれ,これを用いた電子素子に表面弾性波デバイスがある。表面弾性波デバイスは特定周波数の電気信号のみをよく通すため携帯電話の周波数フィルタとして用いられたり,また音波の伝わり方が表面状態に敏感である性質を使ってセンサなどに利用されたりしている。
しかし表面弾性波デバイスのエネルギー損失によって,大きな電力消費を伴うことがしばしば問題となっていた。
そこで研究グループは,高周波数帯で動作するトポロジカル音響導波路を実現するため,微細な金属の周期構造を圧電体表面に作成した。トポロジーの異なる二種類の配列パターンを中央で接合し,その境界が音波の導波路となるように設計した。
これがトポロジカル導波路として動作することを確かめるため,走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡と呼ばれる特殊な顕微鏡によって表面弾性波の伝搬する様子を可視化した。その結果,約2.4GHzという高周波数の表面弾性波において,二つの構造の境界に沿って伝搬していく様子を観測した。
また,周波数を変えた実験や理論計算を解析した結果,今回作成した金属パターンがトポロジカル音響導波路として働いていることが分かったとする。
この成果は表面弾性波デバイス上に金属パターンを描画するという比較的簡単な手法でトポロジカル音響導波路を実現したもの。約2.4GHzという動作周波数はこれまで報告されているトポロジカル音響導波路の中で最も高く,また表面弾性波デバイスとも親和性があるという。
したがってこの成果で得られた導波路を組み込むことで超低消費電力の表面弾性波デバイスの実現につながることが期待される。これは例えば,携帯電話のバッテリー持続時間を大幅に延ばせるなど,様々な電子機器の高機能化に貢献できると考えられる。
また導波路は音波を空間的に閉じ込めて運ぶことができるため,これを利用して表面弾性波と他の量子ビットを高効率に結合させるなど,研究グループは,量子コンピューティングの要素技術としても応用できる可能性があるとしている。