理化学研究所(理研)は,単一細胞の画像や動画から,遺伝子発現の網羅的な計測により決定した細胞の種類や遺伝子発現状態を推定する基盤技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
細胞ががんかどうかなどの状態の判断は,主に観察者の経験や限定的な測定値などに頼っており,データ駆動的に決定することが難しい。そこで,データ駆動的に決められた細胞の種類や状態をAI解析で推定する手法が期待されているが,同一の細胞において,AI解析に有効な画像の取得と網羅的かつデータ駆動型の遺伝子発現解析を同時に実現する手法はなかった。
そこで研究グループは,細胞分取ロボット「ALPS(Automated Live-imaging and cell Picking System)」を開発した。ALPSは,光学顕微鏡による細胞の観察,位置決定,特徴のリアルタイム検出と,それに基づく細胞の選択,単一細胞の分取を,多数の細胞を対象に自動で繰り返して実施することができる。
さらに研究では,分取した細胞の網羅的遺伝子発現の高速実施を実現するために,次世代シークエンサー用の試料調製のプロセスの一部も自動化した。この自動化プロセスでは,ALPSを用いて分取した細胞を含むプレートをそのまま使用し,分取した各細胞に対して同時に試料調製ができる。
これらを組み合わせ,複数の血液系の培養細胞を混在させたマウス細胞集団のサンプルから,合計1,000個以上の時系列細胞画像と網羅的遺伝子発現のデータセットの取得に成功した。用いたサンプルは,網羅的遺伝子発現解析によりデータ駆動的に3種類の細胞種(白血病細胞,T細胞,造血前駆細胞)に識別された。
次に,このデータセットを用いて,時系列細胞画像から細胞の種類を推定したところ,画像データから81%の正答率で3種類の細胞種を識別できた。また,データ駆動的な遺伝子発現解析により,今回用いた造血前駆細胞を2つの状態に区別することができた。そこで同様の方法を用いて推定したところ,この2つの細胞状態を画像から有意に識別することができた。
マウス末梢血中の細胞にこの手法を適用した結果,細胞画像からデータ駆動的に決定した免疫システムの中核を担うB細胞,CD4+T細胞,CD8+T細胞を有意に識別でき,データ駆動的に決められた細胞の種類や状態を,細胞の画像から推定できることが示された。
これにより,非侵襲で細胞の移植前に評価することや,これまで細胞種の同定に用いられてきた分子マーカーの検出も不要となる可能性がある。さらに,既知の適切なマーカーを得ることができていない細胞種や状態の同定にも貢献する。研究グループは,ALPSは超解像顕微鏡や全反射顕微鏡など,多様な顕微鏡との併用による応用研究も可能だとしている。