広島大学の研究グループは,シナプス小胞の融合に関与することが知られていた膜融合因子SNAREの1つであるnSybが,光受容膜への極性輸送にも関わることを明らかにした(ニュースリリース)。
生体内で機能する細胞の多くは極性を持っており,細胞極性の形成と維持には生合成されたタンパク質を特異的な細胞膜ドメイン(極)に送る極性輸送が必要となる。ショウジョウバエ視細胞は,光受容膜・ストーク膜・細胞体膜・軸索という4つの異なる細胞膜ドメインを持つ明瞭な極性細胞であり,モデル細胞として極性輸送研究に適している。
研究グループは,リサイクリングエンドソーム(エンドサイトーシス(食作用・飲作用)によって細胞内に取り込んだ物質を,再び細胞膜へと戻す役割をもつ細胞小器官)が,ゴルジ体の接着と解離により,生合成されたタンパク質の一部を取り込み,極性輸送を行うオルガネラと考えるに至った。
しかし,リサイクリングエンドソームとゴルジ体の接着と解離の分子機構,また,この過程におけるエンドサイトーシスされた積荷タンパク質の輸送と生合成された積荷タンパク質の輸送の関係は明らかになっていなかった。
研究では,リサイクリングエンドソームとゴルジ体の接着と解離の分子機構を明らかにするために,この領域に局在するSNAREであるSybの解析を行なった。膜融合因子SNAREの1つであるnSybはシナプス小胞の融合に関与することが知られていたが,研究においてnSybが光受容膜への極性輸送にも関わることが明らかになった。
研究グループは,ロドプシンが光依存的にエンドサイトーシスされることを既に報告していたが,この研究ではさらに,このエンドサイトーシスされたロドプシンと新たに生合成されたロドプシンは,リサイクリングエンドソームにおいて合流し,共に光受容膜へと輸送されることも見出した。
また,ショウジョウバエ視細胞ではRab5はエンドサイトーシスに必要と考えられてきたが,Rab5はロドプシンの光依存的エンドサイトーシスそのものには必要ではなく,取り込まれたロドプシンを含む多胞体の形成の必要であることも見出した。
視細胞におけるロドプシン輸送の欠損は,網膜変性症の原因になることが知られている,研究グループは,この研究によるロドプシンの極性輸送の解明は,網膜変性症の発症メカニズムの解明と治療法の確立に寄与するものだとしている。