理研ら,原始星を取り巻く氷の有機分子を赤外線観測

理化学研究所(理研)と米韓蘭独の研究グループは,ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いた赤外線観測により,分子雲中で形成途中の太陽型原始星を取り巻く微小な氷の化学的特徴を明らかにした(ニュースリリース)。

地球上で生命が誕生するには複雑な有機分子が不可欠なため,星間化学分野では有機分子が宇宙空間でどのように作られ,どのような化学反応を起こして複雑な有機分子へと進化していくのかを調べている。

この20年間に,生まれたての星(原始星)や太陽系で最も古い物質を含むと考えられている彗星から,地球で知られている有機分子と同様の分子が検出されるようになった。それらの有機分子は,星が誕生する場所である分子雲に含まれる塵の粒の表面で水分子(氷)とともに作られたと考えられている。

この塵の粒の周りに凍りついた有機分子の特定には,赤外線分光法が有効となる。原始星から赤外線が放射されると氷に含まれる有機分子が振動し,特定のエネルギー(波長)の赤外光が中間赤外線の波長領域で弱くなり,吸収線として観測されるため,氷に含まれる分子の組成を調べることができる。

これまで原始星周囲からは,水や二酸化炭素,メタンなどの単純な分子が発見されているが,有機分子を観測するには感度が不十分だった。一方,赤外線分光観測の感度が100倍に向上したJWSTにより,氷に含まれる有機分子の観測が可能になった。また,JWSTは一部のガス状の分子も十分な空間分解能で観測することができる。

研究グループは,JWSTを用いた中間赤外線分光観測により,太陽型原始星IRAS15398-3359の周りに存在するさまざまな分子を含む氷を調べた。中間赤外線観測装置の中分解能分光(MRS)モードを用いて、波長5~28μmの赤外線吸収スペクトルを取得した。

その結果,これまでの観測では確定できていなかったホルムアルデヒド,メタノール,ギ酸などの有機分子による吸収がはっきりと見られた。また,エタノール,アセトアルデヒドなど,より複雑な有機分子による吸収の影響を受けていると思われるスペクトルも得られた。

さらに,水素,一酸化炭素,電離したネオンや鉄原子などについては,吸収ではなく発光のスペクトルも検出された。これは,原始星周辺の温度や衝撃波領域の有無,原始星から放出された物質と周囲のガスとの相互作用などを調べられることを意味する。実際,原始星から噴き出したジェットによって作られた殻状の痕跡を発見することもでき,原始星から放出されたガスによる衝撃の様子が明らかになった。

研究グループは今後,実験室での測定と数値モデルを用いて,検出されたスペクトルの特徴をモデル化することで,氷の存在量を推定したいとしている。

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