千葉大学の研究グループは,オウトウショウジョウバエを対象に,都市化に伴った環境変化が昆虫に与える影響を評価した(ニュースリリース)。
都市化の進行は生物の生息地を奪うだけではなく,街灯や住宅内の照明に由来する夜間の人工光(光害)や,気温の上昇などにより残された生息地の環境を変化させる。しかし,このような環境変化(都市ストレス)が生物に与える影響や,都市ストレスに対して都市の生物がどのような進化を遂げているかは,十分にわかっていなかった。
今回研究グループは,オウトウショウジョウバエを対象に,都市化に伴った環境変化が昆虫に与える影響を評価した。一般に,ショウジョウバエの仲間では,日の出後と日没前後に活動量が高まる二峰性の活動パターンを示す。研究で用いたオウトウショウジョウバエも,夜間に完全に暗くなる環境で飼育すると二峰性の活動パターンを示した。
一方で,夜間に弱い人工光(10 lx)のもとで飼育する実験を行なうと,郊外群の個体と都市群の個体のどちらにおいても,日没前後(点灯後12時間後)での活動ピークが消滅した。また,都市群の個体に限っては,夜間照明のもとでは夜明け前に活動量が高まることもわかり,都市群の個体は,夜間照明がある環境では「夜行性」のような生活をしている可能性が示唆された。
なお,都市群の個体では,一日を通じた夜間照明による活動量の減少も少ない傾向がみられ,夜間照明によるストレスの影響を最小化するように進化している可能性も示唆された。いずれにしても,これほどの活動パターンの変化は,種内の雌雄の出会いや,種間の相互作用に大きな影響を与える可能性があるという。
つぎに,各個体を低温から高温までのさまざまな温度に暴露して,限界の活動温度を測定する実験を行なったところ,都市群の個体は,郊外群の個体に比べて低温耐性が劣ることがわかった。一方で,通常の飼育条件下で都市群の個体と郊外群の個体の高温耐性を比べると,明確な差は認められなかった。
ただし,短時間だけ高温に曝すと,都市群の個体だけ高い高温耐性を獲得することがわかった。都市群の個体は,高温耐性に高い柔軟性(可塑性)を有しており,結果として,高温に耐えられることが示唆された。
これらの結果は,都市における環境変化は,生物の活動に影響を及ぼしている一方で,都市に住む生き物では,そのようなストレスの影響を軽減するような進化を遂げていることを示しているという。
この研究は,都市における各生物種の栄枯盛衰を理解するだけではなく,都市化に伴った生物の減少を最小化するための重要な知見となると研究グループは期待している。