東大ら,新相変化材料で低損失不揮発光位相器を開発

東京大学と産業技術総合研究所は,新しい相変化材料である硫化ゲルマニウムアンチモンテルル(GSTS)を用いた低損失かつ不揮発な光位相器の開発に成功した(ニュースリリース)。

光位相器を多数集積したシリコン光回路は光演算による深層学習加速や量子計算への応用が期待されている一方,光位相器の光損失や消費電力,素子サイズなどが集積化の課題となっていた。

GSTSは従来のGSTよりもバンドギャップが大きく,光吸収を抑えることができる。また,動作波長をこれまでの近赤外光(波長1.55μm)から中赤外光(波長2.34μm)にすることで光吸収の一層の低減が可能であることを提案し,実験結果により低損失かつ不揮発動作する光位相器を実証した。

この光位相器は,Si-on-insulator(SOI)基板のシリコン層を矩形状に加工したシリコン光導波路上にGSTSを積層した構造となっている。GSTSがアモルファス状態から結晶状態に変化する際に大きな屈折率変化が生じることから,シリコン光導波路中を伝搬する光信号の位相を変調することができる。

この光位相器について,シリコン光導波路中を伝搬する光信号の位相変化や吸収変化を評価した。210℃で加熱してGSTSを結晶化した際に生じた位相変調量を位相器長に対して評価した結果,10μm程度と極めて短い素子長で(180度に相当)の位相変化が得られることを明らかにした。

従来のGSTと比べると,いずれの動作波長においてもGSTSの光損失変化が小さいことも分かった。また動作波長が長波になるに従って損失は減少し,波長2.34μmのとき,光損失は0.29dBと極めて小さくなることを明らかにした。

GSTSを用いることで,相変化材料がアモルファス状態から結晶状態に変化した際の屈折率変化を結晶時の消光係数で割った性能指数が,2.34μm の動作波長で94.1となることが分かった。

これは,これまで報告された相変化材料を用いた光位相器の中では最も高い値であり,GSTSを用いて低損失かつ不揮発な光位相器を実証することに成功したという。

シリコン光導波路で形成したリング共振器中にGSTSを用いた光位相器を集積した素子では,GSTSを110℃から210℃に加熱することで結晶化して位相をシフトさせることで,リング共振器の共振波長を光損失の影響を受けることなくシフトさせることに成功した。

この結果は,光損失の影響を受けずにシリコン光回路をプログラミングできることを示しており,深層学習や量子計算に応用できることを明らかにしたものだとする。

研究グループは今後,光パルスや電流パルスでの書き換え技術を開発するとともに,大規模なシリコン光回路に集積することで,深層学習アクセラレータや量子計算機の実証を目指すとしている。

キーワード:

関連記事

  • TOPPANなど6社、量子コンピューターとAIで材料開発基盤を共同研究

    TOPPANなど6社、量子コンピューターとAIで材料開発基盤を共同研究

    TOPPANホールディングス、アイシン、旭化成、ソフトバンク、AGC、DICの6社は、量子コンピューターとAIを組み合わせた材料開発基盤の共同研究を2026年度から2028年度まで実施する(ニュースリリース)。研究提案が…

    2026.10.30
  • 「エッジAI半導体を実現する3Dヘテロ集積技術」プロジェクトの対象技術と課題

    東北大、半導体3D集積の産学連携組織「T-CHIPS」発足 光チップの異種集積も視野

    東北大学は、半導体先端パッケージングと異種チップ集積技術の研究開発を推進するコンソーシアム「T-CHIPS」が発足したと発表した(ニュースリリース)。プロセッサーやメモリ、シリコンフォトニクスチップなど、異なる機能を持つ…

    2026.10.21
  • OKIと独Fraunhofer HHI、光集積型レーザー振動計の試作・動作確認に成功

    写真 登壇している加藤CTO OKIは、ドイツのFraunhofer Heinrich-Hertz-Institut(Fraunhofer HHI)との共同研究により、ハイブリッド光集積技術を用いたレーザー振動計モジュー…

    2026.10.16
  • 早大、超高速180 Gbit/s・低消費電力の光送信器を開発 

    早稲田大学・教授の北智洋氏らの研究グループは、波長可変レーザーと高速光変調器を一体化した光送信器を開発した(ニュースリリース)。67 nmの広い波長範囲に対応し、レーザーの冷却制御を使わず、低電圧駆動で最大180 Gbi…

    2026.10.15
  • 富士通、米ニューメキシコ州と量子コンピューティング研究センター拠点を設立へ 

    富士通は、量子コンピューティング研究センターの設立に向けて米ニューメキシコ州と協業を開始したと発表した(ニュースリリース)。量子コンピューティング分野のハードウェア、ソフトウェア、アルゴリズム、理論にわたる先端研究を進め…

    2026.10.09

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア