広島大学の研究グループは,光の三原色で発光するナノシリコン(シリコン量子ドット)溶液の合成,フレキシブルな量子ドットフィルムの作製,更にそれらの加速劣化試験に成功した(ニュースリリース)。
量子ドットが光材料として本格普及するには以下の問題解決が求められる。①毒性:商品また研究で主力の量子ドットは,インジウム系,カドミウム系,鉛系などの重金属を用いている。
②発光の高効率化:Cd系や鉛系の量子ドットは最大100%の発光量子収率を示す。しかし,発光量子収率70%を超えるSi量子ドット(SiQD)が,近年,欧米ならびに研究グループより報告されている。この値は,単結晶シリコンの発光量子収率0.01%と比較してはるかに高い。
研究グループはこれまで,SiQD研究において,三原色発光するSiQD,白色発光するSiQD,青色SiQD LED,1/380のコストでのSiQDの製造法,最大80%を超える発光量子収率を持つ赤色SiQD,もみ殻を原料とした赤・オレンジ発光のSiQD LEDなどを報告してきている。
今回,三原色発光する溶液分散型のSiQDを合成し,それらの量子ドットフィルムの作製,加速劣化試験を行ない,更に発光と劣化の機構を解明した。
研究の結果,赤(34%),緑(20%),青(12%)の高い発光効率を示し,特に青色シリコン量子ドットは大変高い耐久性も示し,その高い耐久性の起源は表面構造(シロキサン修飾)にあった。
具体的には,青色シリコン量子ドットフィルムを1週間以上過酷条件(太陽光また80℃の熱水)に暴露しても,85%程の発光性能(強度,発光効率)が維持され,劣化は15%程だった。
電子機器の加速劣化試験は温度85℃湿度85%で行われることが多いが,更に過酷な炎天下での太陽光照射,熱水への浸漬(温度80℃,湿度100%)での成果となる。
なお,太陽光や高温・高湿に対するシリコン量子ドット,その量子ドットフィルムの耐久性の研究は,これまで報告がないという。その他,6種類の実験より,発光の劣化の機構,三原色発光の機構(赤:量子閉じ込め効果,青・緑:表面効果)も解明した。
現在,汎用的な材料で,毒性がなく,重金属フリーのサステナブルな発光体が模索されている。研究グループは,シリコンは安全・安心・安価な発光体として,各種ディスプレー,照明,生医学イメージングでの実用化が,SDGsの視点からも期待されるとしている。