東京工業大学の研究グループは,植物に光が当たった時に光合成反応を支える酵素群が活性化されるしくみを明らかにした(ニュースリリース)。
植物の葉緑体で行なわれる壮大なエネルギー変換反応である光合成は,地球上の生命活動を根底から支えている。光合成反応を駆動するには太陽の光エネルギーが必須だが,光合成に利用可能な光エネルギーは植物のまわりで常に変動している。
移動能力を持たない植物にとって,光環境の変化にあわせて自身の光合成機能を柔軟かつ精密に調節することは極めて重要となる。植物はそうした調節をどのようにして行なっているのか,変動する光環境に対して応答するメカニズムの解明は,今日の植物生理科学にとって中心的課題のひとつとなっている。
研究グループは,この光合成の制御メカニズムの解明に向けて,光合成反応を支える酵素(タンパク質)の酸化還元制御に注目した。この酸化還元制御システムの情報伝達経路については,半世紀近く前に具体的な経路が提案されていたが,この経路が植物体内で実際に作用していることを示す明確な証拠はなく,植物にとってどれほど重要なのかも明らかにされていなかった。
今回の研究では,ゲノム編集技術CRISPR/Cas9を活用して,この情報伝達経路の機能を抑制した変異株植物を作成することで,酸化還元制御システムが光に応答して酵素を活性化させる分子メカニズムを解明した。さらに,この経路を含めた酸化還元制御システムが実際に,植物の光合成や生育に極めて重要な役割を果たしていることを明らかにした。
この成果は,「植物は変動する光環境の中で光合成をどのように制御して,持続的なバイオマス生産を成し遂げているのか」ということへの理解を,基礎科学の観点から確実に推し進めたものだという。この知見は,光合成機能の強化による農作物の収量増加といった応用研究への展開のためにも,重要な情報を提供するもの。
さらにこの成果は,未知の還元力伝達経路が葉緑体の中に潜んでいることを示すものだとする。研究グループは,酸化還元制御システムの全貌を明らかにするためには,さらに継続的な研究が必要であり,今回の研究で得られた結果をベースにして酸化還元制御システムの機能を改変することで,光合成バイオマス生産性の向上の可能性を探っていくことも重要な課題だとしている。