宇宙航空研究開発機構(JAXA)らの国際研究グループは,火星と木星の間にある小惑星帯の小惑星596シーラに2010年12月に起こった天体衝突時においてその表層が新鮮な物質に覆われたことを利用し,実時間スケール(約10年間)における宇宙風化作用によるスペクトルの変化具合を観察し,観測の不確かさの範囲内で,観測されたスペクトルは2010年の衝突イベント直後に観測されたスペクトルと一致したと発表した(ニュースリリース)。
2010年12月,T型小惑星596シーラに数十mの小惑星の衝突が起こり,表層が一新された。近赤外域(0.8-2.5μm)のスペクトルの傾きは衝突後に更に赤く変動し,その表層が新鮮になったと考えられている。
即ち,596の表層で宇宙風化作用が進むとスペクトルは青くなるということが判明した。596のような暗い小惑星を起源にしている始原的な隕石に対する宇宙風化作用の実験を行なった室内実験の結果も同様な結果を得ており,両者の宇宙風化作用に対するスペクトル変化の傾向は一致している。
今年(2022年)はこの衝突現象が起きてから約10年過ぎ,596シーラ表層は2010年12月に新鮮になってから約10年間,宇宙風化作用に晒されたことになる。つまりこの約10年間で,宇宙風化作用で,どのようにスペクトルが変化するかを観察できる絶好の機会になる。
そこで研究グループは,はアメリカ航空宇宙局(NASA)赤外線望遠鏡施設(IRTF)の3.0m望遠鏡と国立天文台石垣島天文台の1.05mむりかぶし望遠鏡で,それぞれ近赤外域と可視光域のスペクトルを取得し,596の宇宙風化作用によるスペクトルの変化を調べた。
その結果,可視光域の波長では衝突前後でスペクトルの形の変化はなかったが,衝突後10年経った今回も同様にスペクトルの変化はなかった。近赤外域の波長でも,10年前のスペクトルと比較して変化はなかった。即ち,596のようなスペクトルを持つ暗い小惑星では10年では宇宙風化作用によって,スペクトルは変化しないことがわかった。
今回の結果は,室内実験の予測の範囲ではあったが,約10年間の時間スケールで観測的に確認したのは今回が初めて。さらに今回,宇宙風化作用におけるスペクトルの変化は線形的起こることがわかった。また,千年程度では宇宙風化作用によるスペクトルの変化は顕著に起こらないこともわかった。
今回の成果から研究グループは,NASAが探査機を衝突させた小惑星の衛星を観測する欧州宇宙機関の探査機は,新鮮な表層を観測できることが期待されるとしている。