東京工業大学の研究グループは,線幅30nmのコバルトと白金の交互積層ナノワイヤのアニール(加熱)処理のみで,10kOe以上の高保磁力を有するL10規則化強磁性単結晶ナノワイヤを作製する「ナノ構造誘起法」を開発した(ニュースリリース)。
L10型規則相を持つ強磁性合金薄膜は,正方晶規則格子により107erg/cm3を超える高い一軸結晶磁気異方性エネルギー(Ku)と10kOeを超える大きな保磁力(Hc)を有することから,精力的に研究されてきた。
そうしたL10規則化構造を持つ強磁性ナノワイヤを作製するには,従来,結晶性基板上でアニール処理をすることにより強磁性合金薄膜を形成してから,エッチングによってナノワイヤ化する手法が用いられてきた。しかしシリコン基板などの非晶質基板上に先にナノワイヤを作製し,アニール処理のみでL10規則相とする手法はこれまでなかった。
研究グループは,電子線リソグラフィにより20nm以下のギャップ長を有する白金ナノギャップ電極を作製する技術を確立してきた。研究ではそれと同じ手法を用いて,シリコン基板上に強磁性ナノワイヤ材料としてのコバルトと白金の交互積層ナノワイヤを直接形成し,アニール処理のみで10kOeを超える保磁力を有する強磁性ナノワイヤを作製するという「ナノ構造誘起法」を確立した。
この手法で作製した強磁性ナノワイヤがL10型規則相を形成していることを確認した。またナノワイヤ断面は,ナノスケールにおいて表面エネルギーが最小になるどんぐり型の形状になっていた。さらに,高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)像で断面を拡大し,ナノワイヤが双晶を含む単結晶になっていることを確認した。
研究グループでは,数nmスケールの超高速動作が期待される単分子架橋共鳴トンネルトランジスタの安定動作実現に向けた研究を展開しており,これまでに電子線リソグラフィとナノ無電解金メッキを用いるナノギャップ電極構築技術を確立してきた。今回の「ナノ構造誘起法」は,このナノギャップ電極構築におけるナノワイヤ作製時の知見を元に発案され,強磁性ナノワイヤの作製手法として確立されたという。
研究グループは,今回開発した「ナノ構造誘起法」は,この方法で作製した強磁性ナノワイヤが単結晶化しており,10kOeを超える高保磁力を有することから,新しい規則化強磁性ナノワイヤの作製手法としてインパクトが大きいとする。またスピンデバイス作製に資するため,産業用途への応用が期待されるとしている。