千葉大学の研究グループは,レーザーの照射により絶縁体であるダイヤモンド内部の一部が変質して導電性を示す現象について,試料に照射されるエネルギーの総量が小さいほど変質領域の導電性が高くなる,すなわちエネルギーが小さいほど変質量が多くなるという特異な現象を発見し,その原因を解明した(ニュースリリース)。
ダイヤモンドは優れた特性を有するため,半導体材料や電子デバイスへの応用が期待されている。特に,超短パルスレーザーの照射によりダイヤモンド内部は導電性をもつ黒色のアモルファスカーボンに変質することが知られており,近年はその応用手法が研究されている。
ダイヤモンド内部にワイヤー状の変質領域を作製する手法は次の通り。まず角柱のダイヤモンドの内部でレーザー焦点を移動することで,ダイヤモンドの裏面からレーザー照射面で
ある表面にかけて,黒色の変質領域がワイヤー状に作製できる。
この性質を利用し,ダイヤモンド内部に文字を書き込んだり,電気伝導路として利用できることが報告されているが,レーザー照射条件が変質領域の形状と導電性の関係に与える影響は未解明であるため,それらの制御は困難だった。
研究グループはまず,変質領域の形状とレーザーの強度分布との関係に着目した。レーザーを試料内部の1点に照射すると,部分的な変質領域が生成される。この形状と,レーザーの強度分布の関係を調べ,これらが同形であることを確認した。
次に,ダイヤモンドを移動し,この速度と変質領域の太さ,導電性の関係を調べたところ,「焦点移動速度が速い=単位長さあたりの総エネルギーが少ない」ほど導電性が上昇するという特異な現象を示す焦点移動速度の領域を発見した。
この現象は焦点移動速度が速いほど1パルスあたりの変質領域がより長くなることが必要であり,これはレーザー強度が高い部分でのみ,より効率的に変質されるためだと明らかにした。
変質領域の直径は焦点で最小になり,また,焦点移動速度が速いと直径が徐々に小さくなることから,焦点移動速度が速いほどよりレーザー焦点に近い(レーザー強度が高い)位置で線状の変質が作製されたことによるという。
また,一定より焦点移動速度が速い場合は,変質領域がワイヤー状につながらず不連続になるため,導電性が著しく減少することも明らかにした。
この研究は,高電圧用微細配線のような変質領域を利用した電子デバイスの開発に際して,変質領域の物性を制御するために必要不可欠なデータ。研究グループは今後,より微細かつ高い導電性を示す変質領域の作製に向けて研究を進めるとしている。