広島大学の研究グループは,実験により典型的な3次元トポロジカル絶縁体として知られるBi2Te3のトポロジカル表面電子が,原子の熱振動によりどの程度散乱されるのかを数値化し,それが散乱過程の数で決まることを初めて解明した(ニュースリリース)。
研究ではBi2Te3のトポロジカル表面電子の電子–格子相互作用の結合定数を決めるため,微小領域に集光した紫外線レーザーを用いた高分解能角度分解光電子分光(ARPES)実験を行なった。
この実験装置は空間分解能を高めた放射光実験を行なうために広島大学放射光科学研究センターで独自に開発した装置。この装置を用いると100分の1mm程度の微小領域の電子の性質を世界最高水準のエネルギー・運動量分解能で測定することができる。
原子の熱振動は温度を上げると大きくなるので,研究では低温(マイナス256℃)から室温(27℃)まで温度を変えながら,精度の高いARPES実験を行なった。電子のエネルギーと運動量の関係を調べると,温度が上がるにしたがってトポロジカル表面電子のエネルギーが上昇し,電気を通さない内部でバンドギャップが減少することがわかった。
バンドギャップの大きさは絶縁体の電子を動かすために必要なエネルギーを与える。バンドギャップの減少は,トポロジカル表面電子の散乱強度の温度依存性と関係しており,電子–格子相互作用が主要な役割を果たしていることが明らかになった。
次にトポロジカル表面電子の電子–格子相互作用の結合定数を調べたところ,エネルギーに依存してその大きさが変化し,0.02~0.13の値をとることがわかった。この値は,電線に用いられる銅の結合定数0.2や調理でよく使われるアルミニウムの結合定数0.4よりも小さい値であり,原子の熱振動の影響を受けにくい,ということがわかった。
さらに結合定数のエネルギー依存性を詳しくみると,それが実験で得られたトポロジカル表面電子の散乱強度のエネルギー依存性とよく対応していることがわかった。電子の散乱強度は散乱される過程の数と比例することから,結合定数は散乱過程の数に依存していることが初めて明らかになった。
実験結果を理論研究の結果と比較すると,結合定数の大きさやそのエネルギー依存性が定量的にもよく対応しており,この研究結果を裏付けるものとなっている。研究グループは今後,トポロジカル表面電子を活用した省エネルギーで高速に動作する新しい電子デバイスへの展開が期待できるとしている。