生理学研究所と米カリフォルニア大学サンタバーバラ校は,光刺激で作られる新しい脂質分子とその作用メカニズムを発見した(ニュースリリース)。
これまでの研究で,光刺激がロドプシンで受け取られると,ロドプシンに結合したGタンパク質GqがホスホリパーゼC(PLC)という脂質代謝酵素を活性化する。PLCはPIP2という脂質を分解し,ジアシルグリセロール(DAG)などの脂質代謝物を作る。DAGを代謝するDAGリパーゼ(DAGL)の関与も報告されている。
その結果としてTRPとTRPLチャネルが活性化して視細胞が応答する。しかし,これらのTRPチャネルを直接制御する脂質分子は分かっていなかった。
研究グループは「光刺激をしたときに視細胞で増えてくる脂質分子が重要」と考え,視細胞に光刺激を与えたときの脂質成分を分析した。具体的には,生きたハエに光を浴びせて,すぐに液体窒素で急速冷凍することで視細胞の反応を止め,頭部に含まれる脂質成分を分析した。
実験の結果,光刺激を与えると,内因性カンナビノイドに分類される2-リノレオイルグリセロール(2-LG)という脂質が光刺激で増加することが分かった。そこで,2-LGがどのように生成されるかを調べるため,光情報伝達に重要なホスホリパーゼC(PLC)が働かないハエを用いて,同様の脂質分析を行なった。
その結果,PLCが働かないハエでは,光刺激を与えても2-LGは増加しなかった。これらの結果から,2-LGが増加するためにはPLCが必要であることが分かる。さらに,2-LGはPLC が産生するDAGを基質として,DAGリパーゼ(DAGL)という脂質分解酵素によって生じることがわかった。
次に研究グループは,実際に2-LGが視細胞のTRPチャネルを活性化できるかどうかを調べるために,ハエの複眼を解剖して視細胞を集めた。その結果,2-LGは正常な視細胞を活性化したが,TRPチャネルが欠損している視細胞はほとんど活性化しなかった。このことから,TRPチャネルの活性化には2-LGが重要だと分かった。
さらに,2-LGはショウジョウバエだけでなく,哺乳類のTRPチャネル(TRPC5,TRPC6)を活性化することも分かった。ショウジョウバエと同じ情報伝達経路は,哺乳類の一部の視細胞にも存在することが知られており,今回発見した内因性カンナビノイドによる活性化メカニズムが,種を超えて保存されている可能性を示す。
この成果により,研究グループは今後,幅広い細胞内情報伝達やそれに関わる生理機能・病態の解明に役立つことが期待されるとしている。