金沢大学,名古屋大学,国立極地研究所,宇宙航空研究開発機構,米NASAラングレー研究所,米ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所,加アサバスカ大学,加アルバータ大学は,衛星リモートセンシングと地上電磁波観測を駆使し,「孤立陽子オーロラ」と呼ばれる特殊なオーロラの発生に伴い,高度50~80kmの中間圏に,南北方向の大きさが400km以下の局所的なオゾン量の極端な減少を発見した(ニュースリリース)。
地球大気には,太陽からの放射だけでなく,銀河宇宙線や高エネルギーのプラズマ(イオンと電子)が降り注いでおり,これらは大気を電離させ窒素酸化物(NOx),水素酸化物(HOx)を生成し,オゾン変動の要因になると考えられている。
しかし,高エネルギープラズマが直接目は見える現象ではないため,高エネルギープラズマが地球大気に“いつ”,“どこで”,“どのくらい”の影響を与えているのか,定量的な評価ができていない。
しかし,目視で観察できる孤立陽子オーロラは,高度100km程度でオーロラを発光させる陽子降下だけでなく,もっと低い高度まで大気中へ降下できる放射線帯電子を伴うことが従来研究より分かっていた。
このため研究グループは,放射線帯電子降下による大気変動の影響を明らかにするために,孤立陽子オーロラ直下における中間圏オゾンの影響を調査した。研究で使用したDMSP衛星に搭載された紫外線分光装置,SSUSIによるオーロラ観測は,可視光だけでなく,目に見えない波長の光の観測も可能。このため,天候などの影響を受けることなく,オーロラ現象を検出できる。
また,TIMED衛星に搭載されたSABER装置によるオゾン観測は,広い空間範囲を計測できる。国際宇宙ステーションに搭載されたMAXI/RBM装置やPOES衛星は,軌道上の放射線帯電子を検出することができる。そして,地上では高感度な電磁界センサにより,特殊な1Hz以下の電磁波を検出できる。
このように,複数衛星と地上観測により地上からも衛星が飛翔する宇宙からも遠い中間圏において,世界で初めて1Hz以下の電磁波に伴う陽子オーロラ直下でのオゾン変動を捉えることに成功した。
調査の結果,孤立陽子オーロラの発生に伴い1.5時間後には孤立陽子オーロラ直下の中間圏オゾンが10~60%も減少することが分かった。これは,シミュレーション研究の予想を超える減少率。この知見により,宇宙からの高エネルギープラズマの大気電離作用の影響を加味することで,地球大気環境変動の予測向上への貢献が期待されるとしている。