名工大ら,近赤外光吸収ロドプシンの反応を明らかに

名古屋工業大学と加グエルフ大学は,真菌Obelidium mucronatumが持つ近赤外光吸収酵素ロドプシンOmNeoRの異常な光反応を明らかにした(ニュースリリース)。

ドイツのグループはある酵素ロドプシン(NeoR)が690nmに最大吸収を持つことを2020年に報告したが,NeoRがどのような光反応を示すのか,明らかにされていなかった。

そこでグループは,OmNeoRの光反応を調べた。酵素活性を調べたところ,OmNeoRは可視光吸収型の酵素ロドプシンと二量体を形成し,光により細胞内シグナル伝達物質であるcGMPを産生することがわかった。

OmNeoRは691nmに最大吸収を持つためエメラルドグリーン色をしており,近赤外光の照射により紫外光吸収型の光産物(最大吸収:372nm)を生成する。この産物は微生物ロドプシンの中間体のように熱的に元に戻らず,永続的に安定であり,紫外線を照射した場合に元に戻ることがわかった。

レチナールの異性体構造を調べたところ,近赤外光を照射する前のOmNeoRは全トランス型のレチナールを持つことがわかった。これはすべての微生物ロドプシンに共通する性質だが,近赤外光照射により生成した紫外光吸収型の光産物を調べたところ,13シス型の位置だけでなく11シスとも9シスとも全く異なる位置にピークが現れた。

この領域には7シス型が現れるとの報告もあるが,ダイシス型(9,11シスや9,13シスなど2か所がシス型になっている構造)の可能性もある。そこで得られた異性体の構造をNMR法で調べ,この光産物が7シス型であることを明らかにした。

7シス型はレチナールを有機溶媒中で光反応させてもほとんど得ることができない極めて不安定な異性体だが,NeoRではレチナールがすべて7シス型へと選択的に異性化することがわかった。

次に光反応の性質を調べるため,温度を下げて近赤外光を照射したところ,マイナス3度でも室温の半分しか反応せず,それ以下の温度では光反応は全く見られなかった。今年,報告したベストロドプシンよりもさらに高い反応の障壁が存在することを示しており,これは7シス型への異性化という特異な光反応の性質とよく対応する。

さらに赤外分光解析も行ない,7シス型への異性化を示唆する信号に加え,光反応に伴い発色団からプロトンが離れること,カルボン酸が複合的な変化を起こすこと,レチナールがねじれていることなどを明らかにした。

研究グループは,光遺伝学では生体毒性が低い赤色光での活性化が好まれるため,近赤外光を利用できる点がツールとして有望だとしている。

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