大阪公立大学,三重大学,近畿大学,御蔵島観光協会は,イルカを撮影するだけで簡便に体長を推定する方法を確立し,伊豆諸島御蔵島周辺海域に棲息する野生のミナミハンドウイルカの85頭の体長を計測することに成功した(ニュースリリース)。
透明度の高い御蔵島周辺海域に棲息する野生のミナミハンドウイルカは,30年弱のイルカスイムの歴史があり,観光資源としても重要となっている。また28年にもわたる個体識別調査により,現在約140頭いるイルカたちのほとんどに名前が付けられており,多くの親子関係がわかっているなど,研究資源としても極めて重要。
ところが,2008年から2011年に個体群の約3割の個体がこの場所からいなくなる出来事があり,イルカたちの健康状態をきちんとモニタリングする必要が生じた。そこで体長を測定し,栄養状態の悪化などを調べられるような,「成長曲線」をこのイルカの個体群に対して作成することにした。しかし自由に泳ぎ回る野生のイルカの体長を水中で測定するような,簡便な方法はなかった。
そこで研究グループは,市販の3Dカメラを水中ハウジングに収めたシステムで,イルカを水中で撮影するだけで,簡便に体長を推定する方法を確立した。これを用いて御蔵島の野生のミナミハンドウイルカを対象に,6年間で計85頭の体長を計測した。
この結果をもとに,何歳でどのくらいの体長になるのか,という「成長曲線」を描くことができた。成長曲線は,人間でも子どもの成長障害などを発見するのに用いられているが,野生のミナミハンドウイルカで描くことができたことで,例えばエサ不足による栄養状態の悪化などをいち早く発見できる可能性があり,個体群全体の健康状態のモニタリングに重要な役割を果たすと期待されるという。
課題として,現在のシステムは撮影の際,シャッターを押してから撮影されるまでの時間差があり,適切な位置での撮影が難しい点があるという。また,4%程度の誤差もある。そして研究で使用している市販の3Dカメラが廃盤になったため,今後はビデオカメラを用いてさらに精度の高い,かつ簡便なシステムを作成し,個体群の保全のためのモニタリングを続けて行きたいとしている。