東北大学,日本原子力研究開発機構,産業技術総合研究所,静岡大学は,放射光を利用した光電子分光法を用いて,グラフェンにドーピングされたカリウムの量を測ることに成功した(ニュースリリース)。
グラフェンの機能を制御するドーピングにおいて,ドーピングされた元素(ドーパント)の量を求めることは機能の評価で大切となる。従来はホール効果測定などによるキャリア密度測定を通じてドーピング元素の濃度を間接的に求めていた。
しかし,効率的なドーピングを行なうためには活性化していないドーパントの量も併せて計測できるドーパント濃度測定手法が要望されている。特にグラフェンへの簡便なドーピング手法として着目されている「水酸化カリウム水溶液浸漬法」ではドーピングされるカリウム濃度が少ないことに加え,グラフェンは原子1層しかないため,従来の分析方法でドーピング量を正確に測定することは難しかった。
研究では大型放射光施設SPring-8のビームラインBL23SUの光電子分光法によってグラフェンに含まれるカリウムの濃度を求めた。光電子分光法は放射光を利用しなくても測定可能な方法だが,放射光を利用することでカリウムのような微量な元素も測ることができるようになる。測定で得た実験結果に対してAI化された新しい自動解析方法を適用することで,カリウムの濃度を明らかにした。
研究において,カリウムドープグラフェンに放射光を照射するとグラフェン中のカリウムの濃度が減少することを発見した。これはカリウムが光刺激脱離によってグラフェンから抜けていると考えられるという。
カリウムの濃度とグラフェンの状態を対応づけるためには,従来はカリウム濃度を変えた複数の試料が必要だった。ところがSPring-8の高輝度放射光による光刺激脱離過程をリアルタイム光電子分光法で追跡し,得られた結果をAIで自動解析することで,ひとつだけの試料からカリウム濃度によって変化するグラフェンの状態を明らかにすることができた。
その結果,カリウム濃度に依存してグラフェンに含まれる電子の量も変化していることがわかり,確かにカリウムがグラフェンのドーパントとして機能していることが確かめられた。
これらの結果から,「水酸化カリウム水溶液浸漬法」では,グラフェン1層に約1%のカリウムがドーピングされることが明らかとなった。このうち,約1/8のカリウムがグラフェンに電子を供給し,グラフェンの機能制御に寄与していることがわかった。
研究グループはこの手法が,カリウムドープグラフェンの燃料電池の電極や透明電極,高速動作半導体デバイスなど様々な分野に応用が期待されるとている。