日本電信電話(NTT)と物質・材料研究機構(NIMS)は,グラフェン光検出器の世界最速ゼロバイアス動作(220GHz)を実現し,さらにグラフェンにおける光-電気変換プロセスを解明した(ニュースリリース)。
光信号を電気信号に変換する光検出器は,広帯域かつ高速での動作の実現が求められている。グラフェンは,これらの要求を満たすと期待されており,これまでの研究により,THz波から紫外光までの超広帯域で動作すること,原子一層で2.3%もの光を吸収するため高効率化が可能であることが示されている。
一方,ゼロバイアス下の実証動作速度はデバイス構造や測定機器の問題により70GHzに制限されており,200GHzを超える理論的期待に大きく及んでいない。またこの問題により,グラフェンが光信号をどう電気信号に変換しているのかといった本質的な物性がわかっていなかった。
研究グループは,消費電力および信号雑音比の観点で応用に向けて必要とされるゼロバイアス動作が可能な光熱電効果に着目して,グラフェンにおける光-電気変換の研究を行なった。NIMSが成長した最高品質の六方晶窒化ホウ素を用いて,NTTでグラフェンの両面を保護し極めて清浄なデバイスを作製し測定を行なった。
光熱電効果では,光照射によって上昇したグラフェン中の電子の温度に応じて電流が流れる。高速光-電気変換の実現には,光照射のON/OFFに電流が遅延なく追随できるデバイス構造と,その電流を高速で読み出す技術が鍵となる。
そのために,金属材料ではなく,酸化亜鉛(ZnO)薄膜をゲート材料として用いることでグラフェンとゲートとの間の静電結合に由来する電流遅延を取り除き,電流読み出しにオンチップTHz分光技術を適用した。
その結果,グラフェン光検出器が本来持つと期待されていた高速動作(220GHz)を実証した。また,品質の異なるグラフェンを用いて作製した光検出器の特性を比較することで,動作速度と感度にトレードオフの関係があることを示した。
さらに,これらの結果を解析することで,グラフェンにおける光-電気変換プロセスを解明した。特に,電流の応答時間は光検出器の大きさにほとんど依存しないこと,光照射後に電流が発生するまでの時間を電荷密度によって100fs以下から4ps以上まで大きく変化させることが可能なことを示した。
研究グループは今後,量産化を可能にする大面積グラフェンを用いた光検出器の評価を行なうとしている。