関西学院大学,豊田通商,山梨技術工房は,パワー半導体材料であるSiC(炭化ケイ素)ウエハーの製造プロセスで生じる結晶の歪み(加工歪み層)を検査する技術を共同で開発した(ニュースリリース)。
現在普及しているパワー半導体材料である Si(シリコン)と比較して,SiCは電力ロスを大幅に低減できることから,自動車,鉄道,産業機器,電力等のカーボンニュートラルに向けて,特に電動車(EV・HV・FCV)における採用拡大が期待されている。
SiCウエハーの製造時の課題としては,硬くて脆い材質のため,スライス,研削・研磨の際,表面近傍で結晶が破壊され加工歪み層が生じる。加工歪み層は,ウエハーの良品率低下やパワー半導体の不具合の原因となる一方,ウエハー全面を可視化する技術が存在せず,ウエハー量産加工プロセスの品質管理や受入検査にも適用可能な「高速・高精度加工歪み検査技術」が強く望まれていた。
研究グループは,山梨技術工房の持つレーザー散乱光応用技術に着目し,共同でSiCウエハーの機械加工由来の歪み層を全面にわたり可視化し,ウエハーの歪み層を相対的に比較する技術を開発した。
この技術は,レーザー光をウエハー表面に照射し,表面及び内部からの散乱光を最適な角度で偏光板を通して受光器で検出することで,加工歪み層を可視化することができるというもの。さらに,ウエハー全面を高速で検査することができ,量産加工プロセスの品質管理等へも適用できるとする。
なお,この検査技術を通じて確認された加工歪み層は,関西学院大学と豊田通商が2021年3月に公表した,熱エッチングと結晶成長を統合した非接触型のナノ制御プロセス技術「Dynamic AGE-ing」により,完全に除去することが可能だという。
研究グループは今後,この技術を実装したウエハー検査装置の製品化の早期実現を目指すとしている。