東北大学,住友ゴム工業,理化学研究所,高輝度光科学研究センターは,物質内部の軽元素が示す化学状態を非破壊かつ高分解能で観察可能なテンダーX線タイコグラフィ計測システムを確立し,含硫黄高分子粒子内部の不均一な硫黄化学状態の可視化に成功した(ニュースリリース)。
テンダーX線は,そのエネルギー範囲内に硫黄やリンなど様々な軽元素のK吸収端や貴金属元素のL吸収端を含むため,これらの元素の化学状態を分析するのに有用で,数µm以下の厚さを有する試料の内部における情報も取得できる。
しかし,X顕微鏡の分解能を決定するレンズなどの集光・結像光学素子の作製精度が限界に近付いており,空間分解能が停滞していた。
X線タイコグラフィは,コヒーレンスに優れたX線を試料に照射した際に試料後方で測定されるコヒーレント回折強度パターンを解析して試料像を得る。本来レンズが果たす役割を計算機が担うため,レンズ性能を上回る分解能での試料観察を実現できる。
しかし,X線タイコグラフィ計測に必要な高コヒーレンスかつ高強度なテンダーX線を利用できる放射光ビームラインが世界的にも希少なことから,テンダーX線を用いたタイコグラフィの実証例はなかった。
研究では,テンダーX線を用いたタイコグラフィ計測システムを初めて確立し,リチウム硫黄電池の正極材料の計測に応用することで,その内部における不均一な硫黄の化学状態の可視化に成功した。
開発は,国内で最も高強度なテンダーX線を利用できる大型放射光施設SPring-8の分光計測用ビームラインBL27SUで行なった。計測システムでは,Si(111)結晶分光器により単色化されたX線を直径約10µmのピンホールによって空間的に切り出すことで,試料入射X線のコヒーレンスを確保する。
回折強度パターンの取得には,新たに開発した二次元検出器を使用した。さらに,この光学系にピンホールの精密加工や光学系の恒温化などといった要素技術を導入することで,計測精度の向上を図った。テスト試料を2.5keVで測定した結果,位相像において試料が有する幅50nmの最小構造を観察することに成功した。
次に,硫黄化学状態イメージングの実証実験として,硫黄変性ポリブチルメタクリレート(主要構成元素:硫黄,炭素)の粒子(直径約5µm)を硫黄のK吸収端(~2.47keV)近傍である2.46–2.50keVの30点で計測し,計測精度の高さを確認した。
研究グループは,これまで不明瞭だった正極の反応・劣化メカニズムの解明および電池性能向上への貢献が期待できる成果だとしている。