九州大学は世界に先駆けて,独自かつシンプルなフォトグラメトリの手法を開発し,「バイオフォトグラメトリ」と銘打って,水生生物を中心に1400点700種以上の生物標本の3Dモデルをオンライン公開した(ニュースリリース)。
生物標本は,分類学や生態学などにおいて研究を進める上で基礎となるものであり,重要な役割を担っている。その多くは,博物館や各研究室で大切に保管されている一方で,標本の維持は,標本室の温度・湿度管理や液体の交換など,一般に思われる以上に煩雑で,くわえて標本の劣化や退色は免れられない。
利用にあたっては紛失や損傷のリスクも常につきまとう。また,模式標本(生物分類を定義づける標本)などの重要標本は大切かつ厳重に管理されるが,それが故に利用へのアクセスが困難で,結果あまり利用されないといったジレンマも抱えている。
ただし,近年のオープンサイエンスの発展に伴い,多くの博物館は,標本のリストや画像をオンラインで公開するようになった。とはいえ,標本の細かな部位を観察・計測するには標本の実物にアクセスする必要があった。
「フォトグラメトリ」は被写体を様々な角度から複数撮影することで,3Dモデルを構築する手法。この手法はおもに,ドローンによる地形や街の景観の測量などに用いられてきた。生物の分野ではこれまであまり活用されておらず,どちらかというとCTスキャナやMRIによる内部構造のモデル化が主流だった。
そのような中,研究グループは世界に先駆けて,生物標本を対象としたフォトグラメトリの手法を開発し,「バイオフォトグラメトリ」と銘打って,水生生物を中心に1400点700種以上の生鮮生物標本のカラフルな3Dモデルをデジタルデータで公開した。公開された3DモデルのほとんどはCC BY 4.0ライセンスの下,誰でも自由にダウンロード・利用できる。
今後,このバイオフォトグラメトリが潮流に乗れば,模式標本や絶滅種などの重要標本は,3Dモデルで順次オンラインで公開されるようになる。また,今回公開したような生物3Dモデルは生物学のみならず,様々な分野に応用できると考えられるという。
例えば生物図鑑は現在2次元の画像だが,将来的には,3Dモデルによるデジタル図鑑が一般的になるかもしれないとする。また,近年になってメタバースやバーチャルリアリティが流行っているが,研究グループは,これらの分野でも,生物多様性・環境教育の文脈で,これらのカラフルな3Dモデルが利用されるようになると期待している。