順天堂大学の研究グループは,膠原病診断に使用されていた血流スコープを用い,皮膚表層深さ1mmにおける毛細血管循環の変化のリアルタイムな解析に成功した(ニュースリリース)。
脚や腹部,背中などの皮膚や脂肪組織,筋肉を血管をつけて採取したものを遊離皮弁と呼び,その血管をがんや外傷で欠損した部位の血管と繋いで血流を回復させ,欠損部を覆ったり,形や機能を修復するといった際に用いられる。
しかしながら,繋いだ血管が詰まる,あるいは血流が悪くなった場合,移植した皮弁が壊死してしまうため,血流不全を早期に発見し,血管を再度繋ぎなおして皮弁の血流を回復させる必要がある。
手術後に移植した組織に安定した血液が循環しているかを評価する方法としては,通常では血管の拍動音をチェックするドップラーやエコー検査などの間接的な推察法,あるいは移植組織に針を刺して出てきた血の色や出血速度を見るという侵襲を伴うものだった。このため,移植組織の最も表層となる皮膚成分部分の微小血流循環をリアルタイムで明確かつ客観的に可視化できるツールが求められていた。
そこで研究グループは,血流スコープを応用し,実際の血流障害発生時と同様の状況を模擬した手術中の皮弁皮膚(血管を切り離す前の皮弁の動脈,静脈の血流を一時的に遮断)を観察するとともに,移植組織の皮膚表面の微小循環の変化の評価について検証した。
なお,用いた血流スコープは,従来,膠原病の診断のために爪の根本の血の巡りをチェックする検査において使用されているもので,127gと軽量で,無侵襲かつ当てるだけで誰でも観察画像をパソコンに録画することができる。
研究では実際の手術中に血管を切り離す前の組織の主な動脈,静脈に対して短時間の血流遮断を行ない,皮膚表面の血流変化を血流スコープで評価した。その結果,動脈の血流を遮断した場合,観察部で可視化できる血管の数は減少し,視野の色は白色傾向がみられ,静脈の血流を遮断した場合は可視化できる血管の数は増加し,視野の色調は全体的に赤くなった。
これにより,血流スコープを使用することで遊離皮弁の表層1mmの深さの皮膚毛細血管を可視化でき,リアルタイムで客観的に微小循環を観察できることが証明された。また,観察所見によって血管トラブルが起きている箇所が動脈なのか,静脈なのかを無侵襲で判別できる可能性も示唆された。
研究グループは,このような表層血流を観察することができる部位をもつ様々な疾患や外傷に対し,新たな血流の評価基準を見出すことで,治療効果についてより詳細に判定できる可能性があるとしている。