日本病理学会ら,胃生検の病理診断支援AIを開発

日本病理学会,国立情報学研究所(NII),東京大学は,胃生検の病理診断を支援する病理診断支援AIを開発した(ニュースリリース)。

近年のAI技術,特に畳み込みニューラルネットワークは放射線画像や内視鏡画像等の医用画像分野への応用も進んでいる。ただし,病理診断に用いる顕微鏡画像は高解像度で,病理組織デジタル画像の情報量は桁違いに大きい。

研究グループは,胃生検を対象に,病理診断のダブルチェックを行なうAIの開発に取り組んできた。病理医とAIの診断が不一致となり,病理医が再度見直して判断する症例の数を全症例の10%未満に抑えるため,一致率90%以上を開発の目標とした。

まず,4605個の胃生検組織片の高倍率顕微鏡画像を特殊なスキャナーでデジタル化して病理医が個々の組織片に対して腫瘍・非腫瘍の範囲を特定して囲んだ学習データを作成し,開発した病理診断AIに学習させた。

次に,学習データとは異なる2534個の組織片(内部データセット)を用い,病理診断AIの性能を確認した。スキャナーは医療機関ごとに異なるため,全国10施設から組織片の病理画像を収集し,外部データセットとしてAIの性能の施設間較差を検証した。

病理画像はフルカラーかつ超高解像度のため画像データ容量も大きく,組織片の画像そのものを多数,機械学習に用いるとコンピュータの処理能力を越えるため,通常,画像を細かい正方形のパッチ(一辺256ピクセル,116µm)に分割し,AIモデルの学習や評価に用いる。

この際,細かいパッチに分割してがんか否かの判定を行なうアルゴリズムを使うと,画像全体のうち1か所でも偽陽性のパッチがあると組織片全体が「陽性」と判定されてしまう。

そこで今回,東京大学が機械学習手法「Multi-stage semantic segmentation for pathology WSI(MSP)」法を開発した。MSP法では個々のパッチ画像から特徴量を抽出し,元の病理画像における特徴量の分布も学習するため,病理画像を大幅に圧縮した形で,画像全体におけるパッチの位置情報を失うことなく機械学習を行なえる。

MSP法は,従来法で偽陽性を示すパッチが散在する非癌症例であっても,正しく全体を非癌と判定した。癌と非腫瘍の判定では病理医の診断との一致率94.8%(内部データセット)を達成した。また10施設の外部データセットでも94.6%±2.3%(最小90.4%,最大97.4%)と,従来法より優れた成績を得た。

このAIにより,病理診断のダブルチェックを支援できる。研究グループは,遠隔病理診断ネットワークに組み入れることでがん医療均てん化の推進も期待されるとしている。

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