産業技術総合研究所(産総研)と甲南大学は,太陽電池として有望なCIS系材料であるCuGaSe2のp-n接合界面制御手法を開発し,太陽電池と水分解水素生成光電極という異なるエネルギー変換デバイスにおいて,同じCuGaSe2を用いてそれぞれの性能を向上させることに成功した(ニュースリリース)。
ワイドギャップCIS系材料は,短波長光を吸収するトップセル材料として有望だが,単接合型太陽電池で用いられるナローギャップCIS系とは異なり,欠陥や物性の制御,高性能化が困難で,ワイドギャップCIS系太陽電池の性能の改善は重要課題となっている。
また,水分解水素生成には,理論分解電圧1.23Vに過電圧分を加えた電圧が必要だが,その実現には,広い禁制帯幅(ワイドギャップ)を有する光電極材料が求められる。ワイドギャップCIS系材料の一つであるCuGaSe2は約1.7 eVの禁制帯幅を有するため,タンデム型太陽電池のトップセルだけでなく,水分解水素生成セルの用途でも有望視されている。
そこで研究グループは,CuGaSe2薄膜において,製膜終了直前の表面形成時に,CuGaSe2薄膜の構成元素であるGaやSeの供給と同時に,アルカリ金属ハロゲン化物を供給する手法を試み,これま最高でも70%程度だったワイドギャップCIS系太陽電池の曲線因子を74.6%まで向上した。
また,Cuが欠乏した層を適度な厚さで表面に形成することにより,CuGaSe2太陽電池の開放電圧も改善し,インディペンデントリーサーティファイドエフィシェンシーとしては世界最高となる11.05%の変換効率を,高い開放電圧(0.960V)と曲線因子(72.4%)を両立しながら得た。
次に,太陽電池で用いたCuGaSe2薄膜を今度は光電気化学セルの光電極として構成した。今回の,ほぼ中性(pH6.8)の水溶液を用いて測定した水分解水素生成は,CuGaSe2製膜終了直前にアルカリ金属ハロゲン化物を供給する手法で作製した光電極を用いることで,8%を超える高いHC-STH効率を得た。
また,薄膜表面のCu欠乏層の厚さ制御による界面改質を行なった光電極を用いることで,0.9Vを超える大きなオンセットポテンシャルも得た。これまで,ワイドギャップCIS系材料CuGaSe2薄膜を光電極とした水分解水素生成において,HC-STH効率は1%程度にとどまる報告が通例であり,8%を超える数値は世界最高水準となる。
研究グループは今後,ワイドギャップCIS系薄膜のバルク特性改善にも取り組み,太陽電池と光電気化学セルそれぞれにおいて,さらなる性能向上を図るとしている。