晩期赤色矮星を戦略的に観測し惑星を探査するプロジェクト(IRD-SSP)は,最初の系外惑星を,地球から約37光年離れた位置にある,太陽の1/5の重さの赤色矮星「ロス508」のまわりで発見した(ニュースリリース)。
アストロバイオロジーセンター(ABC)は,8m級望遠鏡用としては世界初の高精度赤外線分光器,すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置IRD(InfraRed Doppler)を開発した。ドップラー法を用いて,人が歩く速さ程度の,恒星の微少な速度のふらつきを検出することができる。
IRD-SSPは,IRDを用いて2019年より開始された。世界初の晩期赤色矮星まわりの系統的な惑星探査で,国内外の研究者約100名が参加する。
太陽に似た恒星まわりの巨大惑星の発見を契機に近年大きく発展した系外惑星の研究は,現在,太陽より軽い,赤色矮星と呼ばれる恒星のまわりに注目が集まっている。銀河系の恒星数の4分の3を占め,太陽系の近くにも数多く存在する赤色矮星は,地球の近くにある系外惑星を発見するのに絶好の観測対象となる。
大気や表層の詳細な観測が可能な,近傍の系外惑星を発見することによって,太陽系とは大きく異なる環境の周りでの生命の有無を議論することができるようになると考えられている。
しかし,赤色矮星は,表面温度が4000度以下と低温で,可視光では非常に暗い。従来の可視光分光器を用いた惑星探査では,限られたごく近くの赤色矮星まわりの惑星しか発見されていない。とりわけ,表面温度が3000度以下の赤色矮星(晩期赤色矮星)は系統的な惑星探査が行なわれていなかった。
そこで,赤色矮星に対する分光観測の困難さを解決するため,赤色矮星が比較的明るい赤外線での,高精度分光器による惑星探査が待たれていた。
惑星「ロス508b」は,地球の約4倍の最低質量しかない。中心星からの平均的な距離は地球・太陽の距離の0.05倍で,ハビタブルゾーンの内縁部にある。この惑星は楕円軌道を持つ可能性が高く,その場合は,約11日の公転周期でハビタブルゾーンを横切ることになる。
ハビタブルゾーンにある惑星は表面に水を保持し,生命を宿す可能性がある。ロス508bは,今後,赤色矮星まわりの惑星の生命居住可能性について検証するための重要な観測対象となる。惑星と恒星の距離が近いため,現在の望遠鏡では直接撮像観測のための解像度が足りないが,惑星大気の分子や原子の分光観測も重要。将来的には,30メートル級望遠鏡による生命探査の観測対象となるだろうとしている。
これは,赤外線分光器を用いた系統的探査で発見された系外惑星として世界初の成果。これまで,低温度星のまわりの惑星は3個しか知られていなかった。研究グループは,IRD-SSPによって,引き続き新たな惑星が発見されることが期待されるとしている。