名古屋大学,愛媛大学,米Vanderbilt大学,KOTOBUKI Medicalは,次世代の技術である蛍光ガイド手術に応用が可能な新たな腫瘍切除モデルを開発し,その有用性を実証した(ニュースリリース)。
頭頸部がんを含めた多くの固形がんでは,手術での完全切除が治療において重要となる。
不完全な切除は有意に患者の生命予後を悪化させることが知られている一方で,がん治療での拡大切除は,手術の後に様々な機能障害が課題となっている。特に頭頸部領域においては,「食べる」,「話す」,「聞く」など生きていく上で重要な機能を司り,手術での拡大切除は患者の生活の質の低下につながる。
近年,近赤外光をガイドとして血管やがんを光らせてより低侵襲に手術を行なう蛍光ガイド手術が注目されている。特に抗体と蛍光色素を結合させる試薬を用いることで,がん本体やリンパ節転移を特異的に光らせ,必要かつ最低限の手術が可能となっている。
さらなる蛍光ガイド手術の発展のためには,実際に外科医がトレーニングすることが必要だが,適切なトレーニングモデルがないのが課題だった。
研究クループは,こんにゃくから作成した模擬臓器(Versatile Training Tissue:VTT)に蛍光物質であるindocyanine green(ICG)を含有させた腫瘍モデルを開発し,その有用性を実証した。
さらに,実際の手術現場に応用するために,名古屋大学シミュレーションセンタにて電気メスを用いて,腫瘍の取り残しがわかるかどうかを検証した。腫瘍をぎりぎり切除する核出群と周りの組織をつけて切除する完全切除群で比較したところ,核出術群では切除後に残存の蛍光強度が有意に高く,腫瘍の取り残しが証明された。
こんにゃくから作られている模擬臓器のため,安全かつ使用後は廃棄も簡単なため,若手外科医や学生への手術トレーニングに有用だという。今後は,開発した腫瘍モデルを内視鏡手術やロボット手術にも応用することで,より低侵襲かつ確実な切除が期待できる。
この腫瘍モデルは医師のみならず,この手術で使われる製品(近赤外光カメラ搭載の内視鏡など)の新規開発にも応用が期待できる。研究グループは,さまざまな蛍光試薬や手術で用いる医療機器での検証を行ない,蛍光イメージングを応用した,より実践的な手術シミュレーションの開発を行なうとしている。