愛媛大学,東邦大学,日本大学,名古屋大学は,モンモリロナイト粘土鉱物にインタカレートされた1価のイリジウム錯体の吸着構造の詳細を,独自に開発する赤外円二色性分光法で明らかにした(ニュースリリース)。
粘土鉱物は層状の無機化合物。これを反応場と観た場合に,2次元的に制限された粘土層間に分子が近接して吸着しているために理想的な分子認識の場を提供すると考えられるという。
例えば光学活性な分子である2価のトリスキレート型錯体([Ru(phen)3]2+(phen = 1,10-フェナントロリン)がモンモリロナイト粘土鉱物へ吸着する場合,一方の型の光学対掌体(エナンチオマー)単独では吸着は1分子層で留まるのに対して,ラセミ体(1:1の光学対掌体)の場合では2分子層にまで吸着する。
この差は粘土面上に一定配向で吸着した分子間に働く立体選択的相互作用の違いによって引き起こされると推定されてきた。しかし,粘土鉱物は絶縁性の微結晶(1μm以下)であることから,プローブ顕微鏡や3次元X線構造解析などの方法を適用して,この仮説を検証することは難しく,長い間,粘土面での分子識別機構のミクロレベルでの解明は未解決の課題となってきた。
今回研究グループは,これを乗り越えるための新しい手段として,独自に開発した赤外円二色性分光法(VCD)を適用した。研究では,1価のトリスキレート型錯[Ir(bzq)2(phen)]+(bzqH = ベンゾ[h]キノリン)のエナンチオマーを用いて,吸着分子間の相互作用を調べた。
その結果,VCDスペクトルが分子間相互作用の影響を敏感に受けることがわかり,理論計算の助けも借りて1分子層と2分子層の間での分子間相互作用の違いを詳しく解明することができた。
用いたイリジウム錯体は光反応などで着目されていることから,研究グループは,今後粘土鉱物を担体に用いた不均一系触媒反応などへの発展が期待されるとしている。