理化学研究所(理研)とアールアンドケーは,広帯域高周波アンプを用いた高速パルサーを開発し,安定かつ時間応答の速い高電圧パルスを発生することに成功した(ニュースリリース)。
X線自由電子レーザー施設「SACLA」では,電子銃で発生したマイクロ秒(100万分の1秒)の長いパルスビームからナノ秒(10億分の1秒)の短いパルスビームを切り出し,X線レーザーの発生に使用する。電子ビームを切り出しにはこれまで,高速スイッチとしてアバランシェダイオードによる高電圧パルサーが用いられてきた。
しかし,パルス出力が不安定であることやパルス波形の調整が難しく,これに代わる新しいパルサーの開発が「SACLA」をより安定に稼働するための課題の一つになっていた。
研究グループはまず半導体アンプに着目したが,信号源である種パルスを増幅する場合,増幅や合成の過程で群速度の遅延など周波数に依存して生じる現象により,元のパルス波形を維持することができない。
次に,いくつかの単一周波数の波を適切に重ね合わせれば,任意の波形をほぼ再構築できるというフーリエ変換に着目。無限個の高調波を用意することは不可能だが,有限個の高調波でも矩形波に近づけることはできる。
研究グループは,波形の乱れを修正するために,いったんパルスを六つの周波数成分に分解し,それぞれの強度や時間タイミングを独立に調整した後で再び合成して目的とする波形を再構築することを考えた。各ラインには時間遅延調整器と振幅調整器の二つの調整器を取り付けているので,合計で12個の調整ノブが備わっていることになる。
実際の合成波形をモニターしながら,矩形波のフラットトップの平坦度が小さくなるように上述のノブを調整することで,パルス幅2ナノ秒,パルス波高0.4kV(2チャンネルの合計),パルス平坦度0.8%の矩形波が発生できることを示した。
また,より複雑な構造のパルスへの応用を示すために,30ナノ秒間隔でパルスを並べたマルチバンチ構造のパルスを生成した。今回の方式を使うと,従来型のパルサーでは発生することが難しいパルス列を作り出せることが分かった。
原理的には任意のパルス波形を作ることが可能な上に,電圧などのパルス特性の拡張性が高いという特長を持つこの成果は,次世代の粒子加速器の要求に応えるものであり,その性能向上に大きく貢献するもの。
他にも,光学レーザーの偏光面を高速で回転してレーザーパルスの時間構造を制御したり,電気・光通信機器でも複雑なパルス列を取り扱っている。研究グループは,こうした幅広い分野で貢献する成果だとしている。