高エネルギー加速器研究機構(KEK),日本原子力研究開発機構,J-PARCセンター,日産アーク,技術研究組合FC-Cubic,豊田中央研究所は,燃料電池自動車(FCV)に搭載される実機サイズの燃料電池セル内部の水の生成・排出に関する挙動を可視化することに成功した(ニュースリリース)。
中性子は高い物質透過能力をもち,水などの軽元素に対する感度も高いことから,非常に厚い金属板で拘束されている車載用燃料電池セルの内部に生成された水の挙動を直接観察することができる唯一の技術として期待されてきた。
しかし,実機サイズ(大面積)の燃料電池セル内部の水の可視化は国外の研究用原子炉など大強度中性子実験施設に限られているため,国内施設での実機サイズ燃料電池セル内部の直接観察が切望されていた。
これに対して,国内では2015年にJ-PARCの物質・生命科学実験施設に,世界で最初のパルス中性子を用いたイメージング専用の実験装置(エネルギー分析型中性子イメージング装置「RADEN」)が建設され,大強度パルス中性子を生かした技術開発が行なわれてきた。しかし,研究用原子炉に設置された中性子イメージング装置と比較して平均中性子強度が劣るという課題があった。
そこで今回,J-PARCの中性子イメージング装置の高い性能に着目し,微弱な光を検知・倍増する光イメージインテンシファイアと相補型金属酸化膜半導体(CMOS)カメラを用いた撮像機器の高感度化および撮像条件の最適化を図ることで,パルス中性子を利用して,研究用原子炉にある実験装置と匹敵する可視化性能を実現した。
その結果,実機サイズの燃料電池セル内部の水の挙動を,高い空間分解能(約300μm)を維持しながら,従来の10分の1以下となる撮像時間(1秒)で可視化することに成功した。これにより,燃料電池セル内部の0.5mm以下のガス流路溝内の水の挙動をほぼリアルタイムで可視化できるという。
またパルス中性子の特長を生かすことで,燃料電池セル内部の水と氷の識別や,水のミクロな挙動とその詳細な解析を組み合わせて可視化するなどのさまざまな応用や利用に展開できる。実験ではトヨタ自動車の実機セルを解析し,このセルに特徴的な絞り流路構造に由来する水の生成・排出挙動を確認した。
この成果により,車載用燃料電池の性能を検証するために実際に行なわれる試験(負荷条件,温度条件,ガス流量条件)と同時に,燃料電池内部での水の生成の様子や,その排出の挙動をその場で観察することが可能となり,燃料電池のさらなる高性能化・低コスト化が期待できるとしている。