理化学研究所(理研),高輝度光科学研究センター,量子科学技術研究開発機構は,X線による放射線環境下でLED照明が故障する過程を詳しく調べ,このような特殊環境下においても市販のLED照明を安定に長寿命で使用できる方法を見いだした(ニュースリリース)。
省エネたのめ大型放射光施設「SPring-8」でも,施設の照明をLED照明に置き換えてきたが,X線による放射線線量の高い加速器トンネル内では,放射線による影響でLED照明が極めて短い時間で故障するため,依然として蛍光灯を使用せざるを得なかった。
一方で,放射線環境下でも長寿命で利用できる特別仕様のLED照明は開発されているが,非常に高価であり,市販のLED照明を放射線環境下で利用可能にする対策が強く望まれていた。
そこで研究グループは,SPring-8蓄積リングの加速器トンネル内の放射線線量の高いエリアにおいて,故障試験を行なった結果,LED光源部ではなく,駆動電源部が壊れて故障することが分かった。
故障した駆動電源部を詳細に調べたところ,LED光源へ印加する直流の電圧と電流を制御するMOSFETが壊れていることが明らかになった。そこで,MOSFETの故障に至る過程を理解するために,X線照射装置を用いて,動作中の駆動電源部にX線を照射しながら,電源の動作が時間的にどのように変化していくのかを,その場計測により調べた。
すると,放射線照射に伴い,徐々にMOSFETの漏れ電流が増加し,0.1mAを超えた付近から,MOSFET素子の温度が上昇を始めた。そして,漏れ電流が1mAを超えるあたりからMOSFETの素子温度は急激に上昇し,漏れ電流が著しく増加し(熱暴走),故障に至る過程が明らかになった。
次に電源オフの条件でも放射線照射中に漏れ電流が電源オンのときと同じように増加していくか調べた。この試験では,漏れ電流を測定するときだけ照明をオン(電源をオン)にし,漏れ電流を計測した。その結果,漏れ電流の増加は大きく抑えられ,照明オンの場合の10倍を超える放射線を照射してもLED照明が正常に動作することが分かった。
この結果から,LED照明の駆動電源部を加速器トンネルの外に移設する,もしくは熱暴走を起こさないように使用時だけ照明をオンするという簡単な対策により,市販のLED照明を使用できることが明らかになった。
研究グループは,この成果によって,世界中の同様な光基盤研究施設におけるLED照明の導入が促進されるとしてる。