名古屋大学,九州シンクロトロン光研究センター,富山大学,広島大学は,アト秒の精度で放射光の時間構造が制御できることを実証した(ニュースリリース)。
ほぼ光の速度(約30万km/秒)まで加速された電子をアンジュレータと呼ばれる装置を用いて蛇行運動させてやると,強い光を放射する。このような装置を2台直列に並べると,数フェムト秒という短い時間持続する光の波(波束)が2つ続けて放射される。
2つのアンジュレータの間に少しだけ電子に回り道をさせる特殊な装置を置くことで,2つの波束の間の時間差を精密に制御できる。研究グループはこのような光を使って,原子の世界で起きる超高速の現象の観測や原子の量子状態の制御に成功してきた。
しかし一方で,本当にこのような時間構造を持つ光が発生しているのか,という疑問も残っていた。そこで今回,研究グループは2つの異なる手法で放射光の時間構造を計測し,その時間構造がアト秒の精度で制御できているか確かめた。
マッハツェンダー型干渉計で実験を行なったところ,アンジュレータからの放射がちょうど10個の山谷からなる波束であるという理論的予想と一致するとともに,10個の山谷からなる波束が2つ続けてやって来ていること,また,その波束の間の時間差を精密に制御できていると考えられる結果を得た。
波速の時間構造を紫外線の波長域で確かめたが,より波長が短い極端紫外光やX線をマッハツェンダー干渉計で調べることは困難なため,極端紫外の波長域では二台のアンジュレータが発する波束の時間間隔を原子の量子状態の干渉を利用して精密に測定した。
極端紫外光を原子に照射すると,原子の中の電子を外側の軌道へ励起することができる。二つの波束を使って原子を励起すると,一つ目の波束で励起された状態と二つ目の波束で励起された状態が重ね合わされ,波束の時間差に応じた量子的な干渉が生じる。
ヘリウム原子を用いて実験を行なったところ,二つの波束の時間間隔が徐々に長くなるときに,強め合いと弱め合いの干渉が交互に起こることを示す蛍光強度の変化を得た。この強度変化の周期から二つの波束の時間差を精度よく決定することが出来る。
この手法で求めた二つの波束の時間差をマッハツェンダー干渉計による実験結果と比較したところ良い一致を示し,アンジュレータを使えば数アト秒という高い時間精度で波形が制御された波束を,様々な波長域で発生できることが示された。
レーザーに比べて時間特性が劣ると思われていた放射光源が優れた時間特性を持ち,その時間特性を精密に制御できることが示されたことから,研究グループは,高速応答デバイスや機能材料の開発,生体分子の放射線損傷の解明にも役立つ成果だとしている。