東京大学,名古屋工業大学,香川大学,イスラエルおよびドイツの研究グループは,海洋などの水圏環境に棲む幅広い種類の藻類が,太陽光で駆動しイオンを輸送する機能を有する,巨大なタンパク質を持つことを世界で初めて発見した(ニュースリリース)。
研究グループは近年解読された海洋などに棲む藻類のゲノム中の遺伝子配列に注目し,その中から動物から微生物までの幅広い生物が持ち,光を感知する機能を持つ「ロドプシン」と,細胞の中でイオンを輸送する役割を持つ「ベストロフィン」の二つのタンパク質が融合した,全く新しいタンパク質が広汎な種類の藻類に存在することを見出し,新たに「ベストロドプシン」と名付けた。
これまで光エネルギーを使うことで,チャネルを通してイオンを輸送する微生物のロドプシンは数多く知られており,チャネルロドプシンと呼ばれている。しかし,チャネルロドプシンは単一のロドプシン分子からなり,その中のチャネルの径はそれほど大きなものではなかった。
ベストロドプシンに光を当てると,ロドプシン部分が光のエネルギーを吸収し,それに伴ってベストロフィン部分中央のチャネルが広がり,塩素イオンなどマイナスの電荷を持つイオンの流入が起こることが示された。今回発見されたベストロドプシンの持つチャネルの径は,チャネルロドプシンのものよりも遙かに大きく,より大量のイオン輸送が可能であると考えられる。
これにより,ベストロドプシンは太陽光を用いて巨大なチャネルの開閉を制御することで,藻類の細胞内のイオンの分布を変える,全く新しいタイプの分子であることが明らかになった。これは動物の視覚や植物の光合成といった既知のものとは異なった,生物による全く新しい太陽光の利用法の存在を明らかにしたものだという。
研究グループは今後,このベストロドプシンは体の奥深くまで届く長波長光で駆動するという特徴を活かすことで,光で鬱病やてんかんなど脳神経が関わる疾患の発生原因を調べ,さらにそれらの治療法の開発が期待されている光遺伝学分野への応用や,視覚再生医療や光による心疾患治療のための新たな分子ツールとしての利用が期待されるとしている。