理研,テラヘルツレーザーの室温発振を理論実証

理化学研究所(理研)は,テラヘルツ量子カスケードレーザー(THz-QCL)の室温以上における発振動作を初めて理論的に予測した(ニュースリリース)。

THz光を光源とした「テラヘルツ量子カスケードレーザー(THz-QCL)」は,小型,高効率・高出力,狭線幅,連続発振,安価,高耐久性などの特徴を持つ優れた半導体レーザーとして実用化が期待されている。しかし,従来THz-QCLは低温でしか動作せず,室温発振が難しいことが問題となってきた。

THz-QCLの発振エネルギーは,3THzで12meVと小さく,室温における電子のエネルギー(26meV)よりも小さいため,室温動作を実現するには,熱励起電子による電子リークが大きな制限要因となる。

GaAs系半導体を用いたTHz-QCLでは,電子-LOフォノン散乱による強い光吸収が36meV(9THz)で起こり,熱励起電子によるLOフォノン散乱を介した電子リークチャネルが問題となる。従って,室温動作を実現するには,これらのリークチャネルの全てを遮断する必要がある。

そのため研究グループは,動作に関わる三つの量子準位を他の準位から完全に分離(アイソレート)する機構を提案した。
①従来の共鳴トンネル注入を改変した「間接注入機構」の導入
②隣接準位への電子リークチャネルの遮断(アイソレート3準位機構の実現)
③熱励起電子LOフォノン散乱の低減

次に,これら3条件を満たす「変形2量子井戸型構造」を発案した。従来の「2量子井戸型構造」は,さまざまな電子リークチャネルが存在し,それによって光利得は低減する。一方,提案では300K(27℃)でも電子リークチャネルが全て遮断され,レーザー発振に必要な高い光利得が得られるという。

さらに,発振準位の対角遷移の割合を大きくし,振動子強度を0.18程度に低減したときに,熱励起電子によるLOフォノン散乱リークチャネルが低減され,大きな反転分布が起こることが分かった。300Kにおいて,導波路の光損失を打ち消すのに十分な光利得が得られ,室温でのレーザー発振が可能であり,最高動作温度は340K(67℃)であることが示された。

これに基づき,実際にGaAs/AlGaAs系THz-QCLを作製し,高温動作を試みた。その結果,研究グループがこれまで実現した最高動作温度160K(-113℃)程度に対し,202K(-71℃)の動作温度を達成した。

ただし,300K以上の動作温度が実現していないのは,QCL構造の結晶成長の際の超格子の膜厚揺らぎが原因と考えられ,膜厚揺らぎの精度を0.2%程度に抑えることで高温動作が可能だという。

研究グループは今後,THz-QCLの室温動作により,実用化に大きな貢献が期待できるとしている。

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