京都産業大学の研究グループは,並列計算機を用いた第一原理計算によって,シリコン結晶中の10原子空孔に関する新しい理論的な知見を得たと発表した(ニュースリリース)。
結晶を作成したときに,本来は原子(1つあるいは複数個)が存在すべき場所から原子が抜け落ちてしまう場合がある。
このときに残された「穴」を原子空孔と呼ぶ。原子空孔は,結晶の電気伝導性や光学特性に大きな影響を与えることから,その存在は工学的に重要となっている。また近年は,原子空孔を量子ビット(量子コンピュータの基本要素)として動作させる研究も進展しており,サイエンスの観点からも注目されている。
原子空孔の興味深い性質は全て,空孔周辺の原子レベルでの構造と,それを反映した電子状態が生み出す。この研究では,シリコン結晶中のV10と呼ばれる原子空孔の原子構造と電子状態を,第一原理計算で明らかにした。V10の存在は従来から知られ興味を持たれてきたが,必要な計算規模が極めて大きいために,これまでは十分に調べられていなかった。
今回,並列計算機上で,実空間法により実装した計算プログラムを動かすことで,V10の第一原理計算に成功した。計算の結果は,量子力学の教科書的な知識に基づいた予想をくつがえす意外なものだったという。
研究グループは論文で,得られたデータの詳しい解析を行ない,そのような結果が得られた特殊な物理的背景を明らかにしたとしている。