東北大ら,単原子デバイスの構築に新たな知見

スウェーデン ルンド大学,東北大学,英リンカーン大学は,産業的に関心の高いSi(111)面7×7構造のコーナーホール内に単一のAg原子が長時間にわたって閉じ込められたままであることを明らかにした。さらに,表面を約150°Cに温めると,数分以内にAg原子がコーナーホールから押し出され,閉じ込めと拡散のプロセスは温度に依存することも明らかにした(ニュースリリース)。

単一の原子に基づいてデバイスを構築するためには,いくつかの元素に簡単に室温で実行でき,かつ必要なら加熱や冷却できる,特定の部位に原子を閉じ込める方法が必要となる。

シリコン結晶は従来からSi(111)表面も多くの実験と理論的研究の対象となっている。しかし,何らかの理由で1つの吸着サイト,コーナーホール(単位格子の四隅にあるフラーレンC60と同程度の大きさの穴)はほとんど研究されてこなかった。

研究グループは,報告の多いAg原子に着目して,7×7構造上へAg原子を蒸着し,熱拡散過程を通してコーナーホールへの吸着・脱離過程を走査トンネル顕微鏡(STM)で原子1個1個を追跡しながら観察した。さらに,第一原理計算により吸着エネルギーを計算し,STM像のシミュレーションも行なった。

7×7構造の単位格子は,積層欠陥のある(FHUC)と積層欠陥のない(UHUC)の二つの副格子(HUC)からなる。蒸着は,Ag線を電子ビームで加熱して行ない,10から20個のHUCに,Ag原子1個が存在する状態から観察を始めた。

室温観察の中で,はじめからコーナーホールのSTM像に清浄表面に比べて明るい像がいくつか観測された。温度を上げながら観察を続けると150℃近傍で,清浄表面と同等の明るさの像に戻るものと明るくなる像に変化し始める。これを丁寧に観測すると,コーナーホールから隣のHUCへAg原子1個が吸着・脱離の過程をくり返していることが分かった。

室温での長時間観察を行なうと4日間以上,Ag単原子はコーナーホールにトラップされた状態であることがわかった。また,このAg単原子のコーナーホールへの吸着状態を明らかにするために,Si(111)-7×7 構造でAg単原子の吸着エネルギーの計算を行なった結果,コーナーホールにあるSi原子の直上でSi-Ag結合を形成し,それが最も安定な状態であることが分かかった。

さらに,得られた計算結果を用いてSTM像のシミュレーションを行ない,STMにより観察された明るい像と一致する結果を得た。これらの結果から,コーナーホールにAg原子1個が吸着する状態を明らかにしたとする。

研究グループは,この効果は単一原子デバイスを構築し,新しいエンジニアリングおよびナノ製造方法を開発する場合に特に魅力的であるとしている。

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