北海道大学,立命館大学,高輝度光科学研究センターは,開発が進められている全固体電池用の硫化物系固体電解質を,X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAを用いて,無損傷かつナノスケールで観察することに成功した(ニュースリリース)。
全固体電池は,可燃性の有機電解液を難燃性の無機固体電解質で置き換えた安全性の高い次世代の電池で,更なる小型・軽量化や長寿命化も期待できる。
近年,固体電解質材料として,アモルファスと結晶粒が混在するガラスセラミクス材料が注目を集めているが,硫化物系固体電解質は,電子線やX線の照射によって結晶粒がアモルファスに変質してしまうため,正確なナノ構造解析が非常に難しいという課題があった。
研究では,独自に開発したSACLAを用いたパルス状コヒーレントX線溶液散乱法(PCXSS)で,硫化物系固体電解質のナノ観察に挑んだ。試料粒子はPCXSS測定の直前に,有機溶媒であるヘプタンとともに液体試料セルへ封入した。こうすることで,潮解を防ぐとともに,結晶とアモルファスのわずかな画像コントラストを増強する効果を示した。
さらに,結晶粒をより鮮明に捉えるために,マンモグラフィなどへの応用が期待される新規のデジタル画像処理法を発展させたMorphoCIEPを新たに開発した。
硫化物系固体電解質を電子顕微鏡観察すると,電子線の照射によって結晶がアモルファスに変質してしまい,内部の結晶粒が徐々に見えなくなる。
一方,フェムト秒のX線レーザーを用いて試料の姿を一瞬で映し出すPCXSSによる観察では,原理的に試料が変質する時間的な隙間もなく,ありのままの構造が得られる。さらに,観察像にMorphoCIEPを適用することで,試料粒子中の結晶粒の分布を鮮明化することに成功した。
また,MorphoCIEPは2次元画像からアモルファスと結晶の体積比を定量的に算出できる。粒子の中の結晶粒の割合や分布は,電池性能の鍵を握るリチウムイオン伝導度と関係しているが,今回観察した粒子では,アモルファスと結晶の体積比はおよそ2.5:1だった。
今回測定した硫化物系固体電解質は準安定状態の材料。これまで活用が困難だった準安定材料は,マテリアルズ・インフォマティクスを活用した,これまでにない機能をもつ革新的物質発見の候補として期待されている。
しかしながら,その名の通り,熱力学的な安定性が低いために,従来の計測手法では十分な構造解析は困難だった。研究グループは,開発したイメージング手法は,燃料電池を含む広範な新規電池材料はもちろん,その他の準安定材料開発の推進にも貢献が期待されるとしている。