京都産業大学の研究グループは,彗星が太陽紫外線放射を浴びることで赤や緑色の「酸素原子オーロラ輝線」を発する原因として,これまで考えられてきた「ライマン・アルファ輝線」ではなく,「ライマン・アルファ輝線よりも高いエネルギーの光子」であることを突き止めた(ニュースリリース)。
彗星の氷は水(H2O)が主成分であり,以下二酸化炭素(CO2),一酸化炭素(CO)などの成分が含まれている。彗星が形成された約46億年前の太陽系誕生期の情報を得るには,これらの組成比を調べることが重要となる。
これらの分子は太陽光を受けるとそのエネルギーを吸収・再放出し,彗星を発光させている一因となるが,主成分であるH2O分子の発光は,地球大気そのものがH2Oを多く含むため,地上からは可視光線で観測できない。
そこで従来,彗星のH2Oの量を推定するために,H2Oが太陽紫外線を受けて壊れる「光解離反応」により生じた「(電子的に励起された)エネルギーの高い酸素(O)原子」の発する特殊な発光を手掛かりにしてきた。
この酸素原子による発光は,オーロラに見られるもので「酸素原子オーロラ輝線」とも呼ばれる。この「酸素原子オーロラ輝線」には緑色と赤色があるが,彗星のH2Oの量を測定する際には,より強く発光する赤色輝線を利用してきた。
「光解離反応」の要因は,太陽スペクトル中のライマン・アルファ輝線と呼ばれる非常に強いエネルギーの光子。これまでライマン・アルファ光子によってH2O分子が壊された際に生じたO原子が得る余剰エネルギーは,赤色輝線を発するO原子よりも緑色輝線を発するO原子の方が小さく,赤色輝線よりも緑色輝線の方が輝線の波長幅は狭くなるはずだと考えられてきた。
しかし2000年代になって,赤色より緑色の方が幅広いことを示す観測結果が次々と得られるようになったことから,今回研究グループは,過去の観測データの検証を行なった。その結果,「H2O分子は,太陽スペクトル中のライマン・アルファ輝線によって光解離される」という考えは,赤色輝線については正しいけれども,緑色輝線については間違っていたことが分かった。
さらに,緑色輝線の輝線幅が赤色輝線よりも幅広いことは従来の観測結果とも矛盾せず,赤色輝線を用いてきた従来の彗星のH2O量の推定についても大きな問題は無とも分かった。
観測された輝線強度比や輝線幅から,彗星におけるCO2とH2Oの混合比を精度よく求めることが可能になり,研究グループは,太陽系が誕生した頃の物質成分や温度を知る手がかりとなるとしている。