京都大学の研究グループは,世界最小のマイクロ流路を作成する革新的なプロセスの開発に成功した(ニュースリリース)。
マイクロ流路をウエアラブルデバイスに組み込む試みや,皮膚に直接貼り付ける試みなどが提案されている。マイクロ流路の製造手法として,透明性と柔軟性,生体安全性に優れたPDMS樹脂に溝を掘り,ガラスやプラスチックのカバーと貼り合わせる手法が普及しているが,貼り合わせるという工程上,その微細化・薄型化には限界があった。
そこで研究グループは,Organized Microfibrillation(制御されたマイクロ・フィブリル化:OM)という手法に注目した。この手法はUVによって光架橋可能な光反応性ポリマーのフィルムに,光の干渉を利用した多層多孔構造を印刷する手法。
光の干渉パターンがポリマーフィルムに転写されて,強架橋の層と弱架橋の層が交互に積層した状態になり,その後フィルムを現像溶媒で膨張させることで,弱架橋の層に穴を発生させる。
OM法は,10cm以上の長距離にわたって貫通する点,多層構造であるという点,多数の柱状構造(フィブリル)が層間を支える点で特徴的な穴を,フィルム「内部」に直接開けることができる。このポリマーのフィルムに2次元の経路を印刷すれば,フィルムに対して水平な流路として活用できる。
OM法による流路作製の特長は,従来の樹脂貼り合わせによるマイクロ流路作製手法が,樹脂に溝を掘る→貼り合わせるという2ステップであるのに比べて,穴を印刷するという1ステップと簡略化できる点にある。
これによって,わずか1μmの厚さのポリスチレンのフィルムに最小幅5μmの流路を印刷することに成功した。これは現在世界最小・最薄のマイクロ流路だという。流路の壁面厚みは100nm程度しかなく,この流路幅と壁面厚みは毛細血管よりも微細だという。
マイクロ流路内に注入された液体は毛管力(キャピラリー)で流動をコントロールできる。素材を溶解しない限り,どんな有機溶媒でも使用可能。様々なポリマー素材に適用でき,ポリスチレンやポリカーボネート,アクリル樹脂などへの適用に成功している。アクリルアミドを界面活性剤として添加すれば,流路内に水を流すこともできる。
OM法は穴の高さを調整することができるので,一枚のフィルムの流路中に高さの異なる2種類の大きさの分子を導入すれば,分子の大きさによる分離が可能になる。分子量の異なる糖類の分離や,インスリンとタンパク質の混合した溶液を流路内で分離することに成功しているという。
研究グループは,新たなデバイス製造手段としての普及が期待できるとしている。