大阪公立大学と東京大学は,水滴がセンサの表面にぶつかる際に生じる電気抵抗を計測し,その分析に機械学習の一つである「リザバーコンピューティング」を用いることで,水滴の降水量と風速を瞬時に同時計測できるセンサを開発した(ニュースリリース)。
近年問題となっている局地的な集中豪雨の情報は,衛星などによる雨雲情報に頼るしかない。もし,雨・風情報を簡易に多くのユーザーから自動計測できれば,局地の莫大な天候情報を取得し,リアルタイムで可視化できるようになる。そこで研究グループは,様々な表面(家の屋根,傘,自動車など)に簡易且つ安価に貼付できる雨・風センサの開発に取り組んだ。
具体的には,ポリイミドフィルムをレーザー照射することで形成可能な多層グラフェンを用いて,水滴の状態を検知するフレキシブル雨・風センサの開発を行なった。センサで水滴の挙動をリアルタイム計測し,そのデータを機械学習の一つであるリザバーコンピューティングにて解析することで,水滴体積と風速を予測する。
まず,水滴がセンサ表面に衝突した際の振舞いを制御するためにシリコーンゴム(PDMS)上に転写したグラフェンの表面をレーザーにて加工した。表面状態を変えることで,水滴がセンサ表面でバウンドしたり分裂したりすることが高速カメラ撮影で明らかとなった。
この水滴の振舞いを上手く利用することで,水のコンダクタンス(抵抗の逆数)をリアルタイム計測し,水滴の体積や衝突速度などを予測する。使用したPDMSは柔軟性を持つため,センサ自体を曲げたり,伸ばしたりすることができ,傘や屋根,自動車などに貼付することが可能だという。
次に,実際に測定した風速0m/sと2.5m/s時の各水滴体積時の抵抗値変化を調べた。各条件において,衝突した際の水滴の挙動が違うため抵抗の変化が異なるが,センサ表面にこの水滴の挙動による抵抗変化の時系列を学習データとして,リザバーコンピューティングを用いた解析を行なったところ,簡易計測には十分な精度の水滴体積と風速を予測することが可能になった。
また,実際に傘にこのセンサを貼付し,自然の風と人工的に与えたランダムな水滴を計測・解析した結果,風速は市販センサと大きな誤差無く計測ができ,水滴の体積の予測もある程度出来ていると考えられる結果を得たという。
研究グループは今後,このセンサの傘や屋根への適用を目指し,センサ角度が変化する環境下でも安定して水滴体積や風速を予測できるシステムの開発や,更なる精度向上めざすと同時に,ネットワークシステムの構築も行なうとしている。