KDDI総合研究所と関西大学は,光波を記録・再生する立体映像技術であるホログラフィーについて,1枚の印刷データに複数コマ分の情報を多重化して埋め込み,再生する技術を開発した(ニュースリリース)。
人への負担がなく,より自然で臨場感のある映像体験を実現するホログラフィー,特に,コンピューターを用いたホログラフィー(コンピューターホログラフィー)によって作成される「計算機合成ホログラム」(Computer-Generated Hologram:CGH)の研究開発が進められている。
CGHは自然な立体映像を実現する一方,視域角を広げるためには画素の密度を高くする必要があり,映像を十分に楽しめる画面サイズと視域角を確保するには,8K映像の500倍以上の画素数が必要となる。そのため,これまでは超微細加工技術を用いてCGHデータを印刷する方法(関西大学が研究開発を進める全方向視差高解像度CGH)がとられており,表示できるデータは静止画に限られていた。
今回研究グループは,全方向視差高解像度CGHを発展させ,印刷する画素数を増やすことなく1枚のCGHデータに複数コマ分のアニメーションの情報を多重化して埋め込み,再生する技術を開発した。これにより,カラーアニメーション化に成功するとともに,18cm×18cmかつ視域角30°と,サイズと視域の両立も実現した。
CGHの再生には画面に表示されるCGHデータに外部から光を当てる必要があるが,この技術では,印刷する1枚のCGHデータに複数コマ分のRGB各波長の情報を空間的に多重化し,かつそれぞれのコマに対応するCGHデータ領域に対して高精度に光を照射する。
具体的には,光を照射する光学系の解像度などの特性に合わせて,波長ごとの画面の占有面積といった多重化用パラメーターを最適化することで,ミリメートル以下の精度で対象のコマに対応するCGHデータ領域のみを選択し,光を当てることを実現した。これにより,1枚のCGHデータを用いてそれぞれのコマを正確に再生することが可能となり,静止画のみという従来技術の課題を解決した。
この成果により,今後,立体案内標識の表示切り替えや,立体デジタルサイネージにおけるアニメーション表示といった,CGHの活用シーンの拡大が期待される。研究グループは,このCGHのさらなる高画質化・大型化を進めるとともに,KDDI総合研究所は,この技術を活用したデジタルサイネージや遠隔コミュニケーションといったさまざまな用途での受容性評価,およびXR技術の更なる研究開発を進めるとしている。