東北大学と韓国科学技術院は,不揮発性磁気メモリの高密度化に必要不可欠な垂直磁化強磁性体に対して,外部磁場を必要とせずかつ低消費電力で磁化反転可能となる新たな手法を確立した(ニュースリリース)。
スピン軌道トルクは,電流を流すことでスピン流を生み出し,強磁性体の磁化を操作できる(電気的磁化制御)ことからデバイス応用に適している。
特に高密度記録が期待できる垂直磁化強磁性体/非磁性体構造では,スピン流を生み出す起源としてスピンホール効果が用いられてきた。しかし生成されるスピン流の向きが一方向に限られるため原理的に磁化反転ができず,外部磁場を印加しなければならない実用上の大きな課題があった。
また強磁性体を含む多層構造では,特定の方向だけでなく,様々な方向にスピン流が生成されることが分かっていたが,その全てを利用した磁化反転はなされてこなかった。加えて,不揮発性磁気メモリの低消費電力化のためには,低電流密度での磁化スイッチングが不可欠となる。
ところが従来のスピンホール効果を用いた方法では,現在実用化されているスピン移行トルクによる不揮発性磁気メモリに比べて,電流密度が1桁以上大きい問題が残されていた。不揮発性磁気メモリを広く普及させるためには低電流密度による無磁場磁化スイッチングを可能にする新たな手法が求められていた。
研究は,面内磁化した下部強磁性体/非磁性体/垂直磁化した上部強磁性体からなる三層構造において,下部強磁性体の磁化と上部強磁性体の磁化方向をずらすことで,全ての方向に生成されるスピン流の同時活用が可能となり,低電流密度かつ無磁場の磁化スイッチングを実現した。
特に下部強磁性体に用いたエピタキシャルコバルトは面内結晶磁気異方性が大きいため,上部強磁性体の磁化との相対角度を自在に制御でき,様々な方向のスピン流を磁化反転に活用できる。同時に,磁化方向に依存するスピン流成分を明確に分離して同定することができるようになった。
このような無磁場磁化スイッチング効率の向上は,現在,不揮発性磁気メモリの製造方法であるスパッタリング法により作製された多結晶CoFeB/Ti/CoFeB構造においても達成され,提案したアプローチがスピントロニクスデバイスの大量生産に適用可能であることを示した。さらに,既存のスピン流を用いた磁化反転よりも30%の低電流密度化を実現した。
研究グループは,この結果が高密度・低消費電力不揮発性磁気メモリの重要なマイルストーンとなり,不揮発性磁気メモリの革新的省電力技術になるとしている。