神戸大学の研究グループは,異なる機能を有する二次元ナノ材料(ナノシート)を多孔質支持膜上に積層させることで,優れた透水速度と光触媒活性の両方を兼ね備えたナノシート積層型光触媒膜を開発し,光照射によって膜ファウリングを抑制することに成功した(ニュースリリース)。
浄水処理分野において,膜ろ過法は連続的に安定して良質な水が得られるが,膜の目詰まり(ファウリング)が問題となる。様々なファウリング抑制技術が検討されているが,十分な解決方法は見出されていない。
チタニアに代表される光触媒材料を膜に導入し,光触媒作用を利用した汚染物質の除去もあるが,このような光触媒膜には水処理膜としての機能と同時に,可視光応答性や高い光触媒活性が求められるため,膜材料や膜構造の観点からの構造設計が必要となる。
ナノシート積層膜は,ナノシート材料(コロイド溶液)を高分子支持膜上に簡易な吸引ろ過を行なうことにより製膜できる。研究では,約100nmの厚みのナノシート積層薄膜を作製した。ニオブ酸ナノシート(HNb3O8)積層膜にカーボンナイトライドナノシート(g-C3N4)を複合することで,層間に由来するチャネル径が制御できた。
膜性能の面では,HNb3O8:g-C3N4=75:25の場合において,積層膜ナノろ過膜としての分離性能を維持しながら,透水速度を約8倍に向上できることがわかった。光触媒性能の面では,カーボンナイトライドナノシートを複合化することによって可視光領域の光を吸収するようになり,また,カチオン性色素(ローダミンB)の光分解活性がナノシートの複合比率によって大幅に向上した。
開発したニオブ酸ナノシート/カーボンナイトライドナノシート複合積層膜は,分離膜としてニオブ酸ナノシートの積層膜と,カーボンナイトライドの層間に挿入されスペーサーにより積層膜のチャネル径が拡大し透水速度が増大,分子量が1000程度の色素を90%分離することが可能。
一方,光触媒の面においては,カーボンナイトライドナノシートは可視光を吸収する光触媒として,ニオブ酸ナノシートは助触媒としてそれぞれ機能する。また,バンド構造を適切に制御したことで,光触媒活性を飛躍的に高められた。
これらの結果を基に,牛血清アルブミン(BSA)を用いた膜のファウリング試験を行なったところ,透水速度が5分の1に低下したナノシート複合膜に光を照射することで,透水性を完全に回復させることに成功した。
研究グループは今後,膜の大面積化,光触媒膜プロセスの開発に取り組み,社会実装・実用化を目指すとしている。