電気通信大学の研究グループは,コンピュータグラフィックス(CG)の手法であるレイトレーシング法を用いて,屈折面の内側や反射面上に歪みのない空中像を表示する技術を開発した(ニュースリリース)。
空中像を結像するための光学素子に,再帰透過光学素子(MMAP:Micro-mirror array plate)がある。光源からの光をMMAPに対して面対称な位置に当てると空中像として結像させることができる。
ただ,その場合,MMAPと空中像が観察者の同一視線上に存在することから,観察者が空中像を覗き込む際に光学素子も同時に目に入ってしまい,見え方が不自然になるという課題がある。
この解決策として,空中像とMMAPの間に屈折・反射面を配置し,観察者が直接MMAPを見られないようにする光学系が考えられるが,その際に映像に歪みが生じたり,その歪みを補正するために物体を加工する必要があった。
研究グループは今回,レイトレーシング法を用いたシミュレーションを活用し,屈折・反射面によって空中像に生じる映像歪みを補償する手法を提案した。
シミュレーション内において,視点から光学系に対して歪みのない空中像が見える時の視点映像の情報を,光線に対して付与しながら光線追跡を行ない,屈折・反射による映像歪みを打ち消すような光源画像を生成することで,結像される空中像の歪みを補正する。
この手法によって生成された光源画像を用いた場合と,用いなかった場合における空中像の形状を比較した。まず,屈折面では,屈折物体の内部に空中像を結像させた場合の像の位置ずれを測定した。
シミュレーションにおいては,屈折率1.49を立方体に適用し,光源画像を生成した。撮影はカメラを空中像を中心に-15°から15°の間で5°間隔で移動させて行なった。この範囲における位置ずれの平均は,補正ありの場合が23.91px,補正なしの場合は78.78pxと,この手法によって屈折による
空中像結像位置の補正の効果が確認できた。
一方,反射面では,歪曲した鏡を反射面として用いてこの手法による歪み補正の効果を検証した。-15°から15°の範囲における位置ずれの平均は,補正ありの場合で30.53px,補正なしの場合で138.68pxとなり,この手法によって反射による空中像結像位置の補正の効果も確認した。
屈折面の内側や反射面上に歪みのない空中像を表示できるようになれば,実物体の内外などに動的かつフルカラーの映像を表示できるようになる。研究グループは将来,平面上だけではない新しいディスプレーの可能性が開かれるとしている。