北海道大学と情報通信研究機構(NICT)は,生体内のエネルギーの流れを自由に制御する光分子スイッチの開発に成功した(ニュースリリース)。
最近,薬の副作用を低減させるために,光の作用で薬効を可逆的にスイッチしうる新しいタイプの薬及び治療法が着目されている。
そのような新しい薬を用いることで,がん細胞のみに一定の波長の光を照射して薬効を発現させてがん細胞を死滅させ,その後,薬剤が正常細胞へと拡散した後は,別の波長の光で薬効を消滅させることができ,その結果,副作用のないがん治療を実現できる。
今回は,細胞が増殖する際のエネルギー源となる物質,アデノシン三リン酸(ATP)に着目し,酵素中でATPと競争的に取り込まれて,ATPの働きを阻止して,細胞の活動を停止する物質を開発した。
その物質は光によって可逆的に分子構造が変化するアゾベンゼンという部位を有しているため,光の作用で行き来しうる性質が異なる2つの状態を示す。
青色光照射後の状態ではATPに対する阻害効果を発揮するが,紫外光照射後は阻害効果が消失した。そのATPに対する光応答的な阻害効果は,ATPの作用で機能するタンパク質の実験やATPを使って活動する微生物の実験で確認した。
微生物クラミドモナスの実験では,青色光照射後では,クラミドモナスが阻害剤の作用でほとんど動かず,紫外線照射後には阻害剤の活性が消失し,クラミドモナスが鞭毛を使って活発に運動した。
以上より,今回設計・合成した物質がATPのエネルギーを利用するタンパク質の働きを光で自由にON-OFF制御でき,その効果は個体レベルの機能にまで反映されることが示された。
このような物質は,ATPをエネルギー源とするあらゆる細胞の活動の光制御に応用できると考えられることから,研究グループは,光薬理学の今後の発展に大きく寄与すると考えられるとしている。